98年訪英。両陛下(当時)の馬車に背を向け抗議する元日本軍捕虜
98年訪英。両陛下(当時)の馬車に背を向け抗議する元日本軍捕虜

 ダム広場をぐるりと取り囲むビル群には、およそ2千の窓がある。窓から妨害が起きてもおかしくはない状況の中、献花を行う両陛下の両側では、捧げ銃の兵士がデモや暴動に備えてずらりと整列していた。

 何より驚かせたのは、オランダのベアトリックス女王が脇を守る盾となったことだ。明仁天皇と皇后美智子さまの両脇を守るように、ベアトリックス女王とコック首相、アムステルダム市長が並び、献花台までエスコートしたのだ。

 このとき宮内庁の式部官長としてダム広場にいた苅田吉夫さんは、筆者にこう振り返っている。

「女王陛下が国賓と献花台に進まれるのは異例のことで、この提案は女王自らなされたと聞いています。国民から深く敬愛される女王陛下の、ご訪問を成功させようとの並々ならぬご配慮を感じました」

 オランダの女王は国民への大きな影響力を持っていた。女王による「盾」、そして両陛下の後方を守るように、子どものころインドネシアの収容所にいたハウザー元将軍らを献花式のエスコートとして加えたのは、国民へのメッセージであった。

皇室は触れ合いと対話が「盾」とする

 英王室は、年間180億円近い警備費用を警察に支払っている。

 17年には、過激派組織「イスラム国」(IS)の支持者がウィリアム王子とキャサリン妃の長男、ジョージ王子が通う小学校を標的にした脅迫文をメッセージアプリに投稿し、逮捕された。またストーカー事件も起こるなどしたため、覆面警護官が常駐し、授業中も双眼鏡で監視するなど厳戒体制で守る対策がとられた。

 それでも王室が国民の絶大な信頼を得ていることもあり、欧州の王室は国民との距離が近い。特にオランダや、デンマークなどの北欧の王室メンバーは、いまも自転車で気軽に外出している姿を街中で見ることができる。

 王室メンバーに限らず、君主ですら護衛を一切連れずに街中を歩くこともあるという。

 1998年の英国訪問のあとに訪れたデンマークでもそうした空気があった。マルグレーテ女王のすぐ横を、自転車に乗った子どもたちが、「ハロー」と言って通り過ぎる光景が見られた。

次のページ