絵:チャンス大城
絵:チャンス大城

 僕は14歳で入学しましたが、当時、せいじさんは19歳。ジュニアさんは15歳だったと思います。せいじさんはアメリカ村の喫茶店でバイトをしながらNSCに通っていて、ふたりは大阪市内のワンルーム・マンションで暮らしていました。

 ある日、僕は千原兄弟さんのマンションに泊めてもらうことになったのです。おかんに電話をすると、「泊まってええよ」という返事です。大阪の、しかも年上の人のマンションにお泊まりするなんて、中学生としてはドキドキする体験です。

 その日、ジュニアさんは用があったので、せいじさんがマンションに連れていってくれました。想像していたよりも、ずいぶん狭いワンルームでした。

 せいじさんは疲れていたのか、部屋に入るとすぐにベッドで寝てしまいました。僕は取り残されて所在なかったかというと、まったく、そんなことはありませんでした。

 部屋にエロ本があったからです。当時、エロ本は貴重品でした。

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 僕は一度、お年玉をためて本屋にエロ本を買いに行ったことがあったのですが、店員さんに断られてしまった経験がありました。友だちが、「河原にエロ本が捨ててあるで」というので急行してみたら、たしかにあるにはあったのですが、雨で濡れていてページをめくれないという悔しい思い出もありました。

 だから、せいじさんが寝てしまったのをいいことに、僕は部屋にあったエロ本を徹底的に読みふけったのです。

 最初のページから、驚愕の連続でした。頭から最後まで読んで、もう一回、もう一回と、下手をしたら10往復ぐらいしたかもしれません。

 そして11往復目ぐらいに、僕は後頭部に強い視線を感じたのでした。

 振り返ると、せいじさんがベッドからむっくり体を起こして、眠そうな、けれども意志を持った目で僕のことをジーっと見つめて言いました。

「おまえ、その執念、忘れるなよ!」

 その後の人生、酒に溺れてしくじった時、自分の子供に会えなくなった時、自分の情けなさに泣けてきた時……、いつも路上でもがいているような僕の人生、この言葉に救われてきました。

 今はこの言葉を座右の銘にしています。

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