チャンス大城さん(撮影/写真映像部・東川哲也)
チャンス大城さん(撮影/写真映像部・東川哲也)

 しばらく叫び続けていると、山頂付近の雑木林の中からふり絞るような声が聞こえてきました。

「オオシローーーーーっ!」

 ワダは山林の中に、僕と同じスタイルで埋められていました。軽トラのおっちゃんと僕とふたりがかりでワダを掘り出して、おっちゃんに近くの駅まで送ってもらいました。

それにしても、世の中には親切な人がいるものです、軽トラのおっちゃんは、

「君ら腹減ってるやろ、飯おごったるわ。体力つけなあかんで」

 と言うのです。

 僕もワダも腹が減って疲れ切っていたので、おっちゃんに甘えてご馳走になること
にしました。

 さて、例の凶悪な親玉はどうなったかというと、結局、逮捕されて半年間鑑別所に入っていたそうです。鑑別所を出たら僕の家に「挨拶」に来るんじゃないかとビビッていたのですが、ある日、本当に挨拶にやってきました。

「もう、臭い飯食いたないからなー、いままでのこと、1万円で全部チャラにしたるわ」
 親玉が来たとき、僕は1万円なんて大金は持っていませんでした。おかんは居間で『笑っていいとも!』を見ながら、ゲラゲラ笑っています。

「おかん、お母さまー、あのー、1万円貸してもらえませんでしょうか?」

 普通だったら絶対に、「なんであんたにそんな大金貸さないかんの」と言われてお終いです。

でも、神様って本当にいるんですね。

「あははは、ええよー、あははは」

 おかんは、笑いながら1万札を渡してくれたのです。

 親玉にその1万円を渡すと、

「ほな、またな」

 と言って引き揚げていきました。

「自由や、これでやっと自由を手に入れたんや……」

 僕は、親玉が立ち去った後、ひとりで家の外に飛び出して大声で泣きました。