大城文章著『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)※本の詳細をAmazonで見る
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「おまえら、いくら持ってんねん」
お金なんて、持ってません」

 その時、ものすごい美人の嫁さんがこう言ったのです。

「こいつら、絶対金持ってるわァ」

 僕は、この言葉を聞いてびっくりしてしまいました。うまく言えませんが、お腹に子供を宿している女性がこんなことを言うのか、と思ったのです。いや、妊娠しているからこそ必死だったのかもしれません。部屋の襖に大きな穴が開いていましたが、それは、もしかすると彼女が親玉にしばかれた痕跡かもしれません。

 親玉がおごそかに言いました。

「これから毎日、俺たちにしばかれて、お金を渡しますと契約書に書け」

 冷静に考えるとアホみたいな内容ですが、僕たち3人は本当に手書きで契約書を書かされたのです。

 契約書
 私は毎日●●さんにしばかれて、いつでもお金を渡します。
                       大城文章

「おまえら、ハンコ持ってるか」

 そんなもの、いま持ってるわけがありません。すると親玉が嫁さんに向かって、

「おい、包丁持って来い」

 と言いました。嫁さんがかいがいしく台所から包丁を持ってきました。

「おまえら、ひとりずつ手ぇ切って血判押せや」

 最初に包丁を渡されたワダは、うっ、うっ、うっ、と変な声を出すだけで、まったく切ることができませんでした。極限状態だというのに、僕はワダの姿を見ていたら、なぜか急にへらへら笑いがこみ上げてきました。

 すると親玉が、

「こうやるんじゃー」

 と、お手本に自分の指を切ってみせました。

 ワダは手をつかまれて、無理やり人差し指に包丁を当てられました。ワダは悲鳴を上げました。

「痛てー」

 僕は、一発でシュッと切れました。

 サイトウも無理やり切らされましたが、血判を押した瞬間に気絶してしまいました。僕は一瞬芝居じゃないかと思いましたが、サイトウはその後もずっとピクピク痙攣していました。

 親玉が僕とワダに向かって言いました。

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車に載せられたチャンス大城とワダ