「なんや、戻ってきたんかいな。ただの脅しやったんか」
僕が淡い期待を抱いていると、車の中から懐中電灯を持った2人組が降りてきました。親玉たちではなく、どうやら肝試しにきたカップルのようでした。僕は声をふりしぼって懇願しました。
「あの、あの、すみません、すみません……」
「なんか、声するやん」
女の子の声が言いました。
「やめろやおまえ、脅かすなや」
男が言いました。
「あの、あの、すみません、すみません……」
もう一度呼びかけると、ふたりはパタリと会話をやめました。
男の方が懐中電灯であたりを照らし始めました。やがて、懐中電灯の光が僕の顔にピタリと当った瞬間。
「ギャーーーーーーーーーっ! 出たーーーーーーーーーーっ!!」
この世のものとも思えない絶叫をあげながら、カップルはカール・ルイス並みの速さで車に駆け戻りました。間もなく、あわてて山を下りていく車の音が聞こえてきました。きっと彼らは、生首を見たと思ったのでしょう。
「待ってくれー、違うんやー、待ってくれーーーーーーーっ……」
あのカップルは、山を下りてから友だちに「六甲山で生首を見た」と触れて回ったに違いありません。でも、違うんです。あれは僕なんです。
それからずいぶんたって、空がだんだん明るくなっていき、やがて太陽が昇ってきました。
僕は恐怖の連続でアドレナリンが出尽くしてしまったのか、体はヘトヘトでした。脱水症状で喉もカラカラでしたが、頭は焦りで高速回転していました。このまま黙っていたら、本当に死んでしまいます。
「助けてくれーっ」
力いっぱい叫びました。
「助けてくれーっ」
これでもかというぐらい、叫びました。
すると、
「タスケテクレーー」
と木霊が返ってきました。
でも、返ってくる「タスケテクレーー」という声が、どうも僕の声とは違うのです。
「!!」
「ワダーーーーーーーーーーーっ」
「オッ、オオシローーーーーーーーーーーーっ」
ワダはどうやら、向かいの山に埋められているようでした。ワダに質問してみました。