そんな中で、出羽海部屋の吉の谷という力士は、風呂に入って大イチョウを結ってもらった後でも、投げられるたびに土俵にゴロゴロ転がって、いつも髪もからだも砂だらけになっていたんだよね。最初は俺も「あんなに転がって馬鹿じゃないのか?」と思ったけど、どこに行ってもずっとそんな感じだから、見るたびに感心していたよ。小さいからだだけど、足取りが上手くて、立ち上がりでパッと足を取って、珍しいタイプのお相撲さんで、番付は前頭4~5枚目くらいまでいっていた。いつも髪の毛がボサボサになるまで当たって、土俵下に転がって一生懸命な吉の谷を見ているときは、まさか自分のその後に、プロレスであれだけリング下に転がされて、その上に殴られて、蹴られたりする人生が待っているとは思わなかったよ。それも65歳まで!(笑)

 さて、夏と言えば、いろいろな食べ物があるけど、真っ先に思い出すのは、かき氷だ。これは好きなんじゃなくて、相撲の下っ端の頃に丼いっぱいのかき氷を食べたら、トイレ直行になってしまって、それ以来かき氷が怖くなってしまったからだ。その当時、かき氷は喫茶店で食べたり、目上の人が買って来て食べるのを見ているような特別な食べ物だったんだ。俺たち下っ端は自由がきかないし、勝手にかき氷を食べられるような立場じゃなかったからね。だからこそ、かき氷が食べられるとなって、嬉しくて一気に食べてしまった……。今でも何年かに一回はかき氷を食べるが、それも恐る恐る口に入れるようになってしまったよ。

 もちろん、夏の好きな食べ物もたくさんあるよ。よく食べたのは鰻や水ナス、谷中生姜だね。鰻は元気が出るから現役時代は家族とよく食べたし、水ナスは女房が京都出身なもんで、夏になるとよく食卓にあがった。そうそう、女房がよくスイカの白い部分を漬物にしてくれた、これが食欲増進してくれるいいつまみだったんだよ。最初は「スイカの皮なんて食わせやがって!」と悪態ついたんだが、食べてみたらこれがおいしくてね! 女房が出してくれたものは、なんでも文句言わずに食べるべきだよ(笑)。

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