母親が教団にのめり込み一家離散した山岡美保さん(仮名)
母親が教団にのめり込み一家離散した山岡美保さん(仮名)

 山岡美保さん(35・仮名)は、教団から離れて10年以上になる。物心ついた時から20年間も信仰し続けた宗教は、家族全員を巻き込み、そして壊していった。

「10年という長い時間がたった今でも、私たち家族の問題は解決していません」

 美保さんの母親は、美保さんの5歳年上の兄を出産後すぐに宗教と聖書の勉強に熱中した。そして、美保さんを妊娠中に洗礼を受けて信者になったという。

「母は早くに自身の兄と姉をがんで亡くしています。それゆえ自分の家族は健康で幸せでいてほしいという願望が人一倍強かったようです。だから病気で苦しむのはサタンのせいで、この世はサタンに毒された人たちばかりだけれども、いずれハルマゲドンで世界が滅びれば信者は楽園へ行ける、という教団の教えにのめり込んでいったのだと思います」

 夫を愛し子どもをかわいがっていた母親は、いつしか「神様第一」に変わっていった。その頃から、父親が帰宅する時間になっても家には誰もおらず、母親は子どもたちを連れて教団の集会へ行っていることが多くなった。

 そして、家族には亀裂が入り始める。普段は無口で物静かな父親が、いきなり部屋のふすまを何度も殴って、ビリビリに破り捨てたという。

「父の前では宗教はタブーなんだと思い知りました。それから間もなく、父から『お母さんと一緒にいて、このまま宗教を続けるのか、それともお父さんと一緒にいるか、どちらかを選びなさい』と言われました。まだ物心がついたばかりの私は、何を言われているのかもわかりませんでしたが、しばらくすると父は家に帰らなくなりました」

 それ以来、父親は家族と別々に暮らすことになったが、最低限の生活費だけはくれたという。週末には父親の実家に行って家族全員で食事をすることが習慣になっていたが、それも10代半ばで途切れた。

 教団では、立場が上の信者がいうことは絶対で、少しでも教団の規律に“ふさわしくない”と判断されれば白い目で見られる。常にお互いを監視し合っているような状況だった。自分の考え、自分の感覚、自分の価値観はすべて無意味で持ってはいけないものとされていたので、美保さんは常に“自分を殺している状態”を求められ、徐々に苦痛を感じるようになったという。

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