もともと一般的な常識とはかけ離れた価値観で育てられたまゆみさんは、学校へ通うようになると苦痛と恐怖のくり返しに変わり、次第に自分の考え方や日常生活が同級生とは異なる現実に戸惑い、心を悩ませることになる。

「友達と誕生日もお祝いしてはダメ、テレビはなく、漫画などもすべて父と母が検閲して許可されたものだけ。友達になるのも父から許可が下りた人だけで、『サタンの悪影響がある』『頭が悪くなる』という理由でその子の家では遊んではいけない。学校で七夕の飾りをしても、神の教えに反するからと飾れない……。」

 まゆみさんは小学校に入学する前から、“この世には善と悪の2種類しか存在しない”という二元的な思考と“愛されるには一定の要求を満たさねばならない”という教えを親からたたき込まれ、その手段の一つとしてゴムホースや皮のベルトでお尻をたたかれていたという。

「たたくことで悪魔を追い出せるといいますが、親からの体罰は屈辱と恐怖以外の何物でもありません。思い出すと手が震えることもありました。でも、屈辱と恐怖と裏腹に、私は自分が異性の前で下半身をさらされて親にたたかれたり、目の前で他の子たちがやられたりしているのを見てつらかったはずが、いつの間にか性的興奮に結び付くようになっていました。そんな記憶を喚起したことで、こんな感情になる自分が気持ち悪くて、こんな自分にした宗教団体と親をどういう気持ちで受け入れていいかわからなくなっていました」

「カルト」は、ある日突然誰かの日常に入り込んでその後の人生を大きく左右する。その親に育てられた2世は、親や教団側からの強い働きかけ、特有の価値観で縛られ、教団の教理と価値観が『絶対』であり、それがすべてだと教え込まれる。しかし、その宗教から離れた後も生きづらさを抱えてしまう。本人からは言い出しづらい過去であるがゆえに、周囲から理解されるのはなかなか難しい。だから、未来にも不安が残る。

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ハルマゲドンが来れば信者は楽園に行ける