ITの世界は刻々と変化する。学び続けるという研究者のマインドが役立つのかもしれない。
「ITなどの専門知識は入社後の教育プログラムで修得できます。それよりもビジネスの基礎となるような、自分で問いを立てて解決していく力を大学院で培ってもらえばと思います」(同)
■大学院に進むにしても就活をぜひ活用しておきたい
「文系修士の学生の就職について大学から相談を受ける機会が増えてきました」と話すのは、新卒の就職事情に詳しいリクルート就職みらい研究所の栗田貴祥所長だ。
「卒業後の就職状況が厳しいことから、修士課程や博士課程への進学希望者が減少していくのでは、という懸念が高まっているためです」(栗田氏)
そもそも文系は大学院からの就職が難しいと思われがちだ。卒業後のキャリアについて限られたイメージしかないためではと栗田氏はみる。
「修士課程で研鑽し身につけた論理的思考力や学び続ける姿勢などが、ビジネスの世界でも通用する可能性が高いことを認識できていない学生や教員が多いと感じます。企業の側も、文系修士の学びの実態をあまりよく理解できていないために、文系修士人材にどう活躍してもらうかのイメージが持ちきれていません」
こうした双方の認識が、高い能力や多様なスキルを持つ院生の将来の可能性を狭めてしまっているという。
「興味のある分野をさらに極めてアカデミアの世界に進む道もあれば、ほかの世界で自分の価値を発揮するという選択肢もあります。学問を研鑽した結果、ビジネスでも活躍できるフィールドがあるのに本人にはもちろん、社会的にももったいないことです」(同)
企業は、活躍の可能性を秘めた文系修士を意識的に発掘してみてはどうかと栗田氏は提言する。そして学生には、積極的に就活をすることを勧める。
「就活は世の中や仕事のことを企業が積極的に教えてくれるので、自身の能力がどこでどう通用するのかを見極められるし、自らの学びが世の中でどう生かされるのかを知り、学業に取り組む意欲を一層高めることができる絶好の機会になり得ます」
大学院に行くから就活はしないのではなく、学部生のうちから社会との関わりを広げて、よりよい人生を切り開いてほしいと栗田氏は助言する。
(取材・文 福永一彦)
※アエラムック『大学院・通信制大学2023』より