4)後発品は、製剤段階で各メーカーによって添加物が異なることが知られています。有効成分が同じでも先発品と比較して有効性や安全性が違うのではないかとの疑問も起こります。
5)医薬品は工業製品で、有効成分である薬理作用を有する化学物質は、簡単な出発物質を用いて何段階もの有機化学反応を経て合成されます。その各化学プロセスで得られる化学物質の純度や、不純物は含まれていないかのチェックが重要ですが、どこまで実際に行われているか疑問です。
6)国際分業が進んでいる医薬品製造業界は、中国やインドなど海外の原薬メーカーから有効成分の化学物質を購入していることが多く、その原薬の純度や原薬工場の査察体制が気になります。
7)少し専門的になりますが化学の視点から考えてみましょう。
ラベプラゾール、オメプラゾール、ランソプラゾールは、いずれもスルホキシド基(S=O)という構造を有していますので、光学異性体(左手と右手、ヒラメとカレイの関係のように鏡に映した鏡像異性体)が存在し、胃薬としては異性体の混合物です。それぞれの異性体が体の中でどのような働きをしているかの臨床試験がどこまでされているのか疑問です。
薬害の代表例のひとつ、サリドマイド事件は誰もが知っているでしょう。サリドマイドも薬理作用の異なる光学異性体が存在します。一方の光学異性体は薬として働きますが、他方は胎児に奇形が起こる催奇形性を有し、サリドマイド児が生まれる悲劇が起こってしまいました。
■後発医薬品のチェック体制
上述した疑問点を後発品メーカーなどに問い合わせしても明確な答えは返ってきませんでした。先発品でも注意すべき点はありますが、これだけ多くの後発品が処方され、これだけ多くの後発品メーカーが存在しているとなれば後発品について、しっかりとした情報提供と監視体制が欠かせません。
医薬品のほんの一部である胃酸分泌抑制剤による重篤な副作用を経験し、医薬品の安全性を考える機会となりました。
どの薬にも副作用は伴いますが、命を守るはずの薬で薬害が起こらないように、日本ジェネリック製薬協会、国立医薬品食品衛生研究所ジェネリック医薬品品質情報検討会、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、厚生労働省のしっかりとした審査監督をお願いしたいです。
※「薬剤性間質性腎障害の最近の知見について」、Sysmex Journal Web Volume21 No.2(2020) Web 公開日:2020年8月25日、p.46。「ラベプラゾール(パリエット)が原因と考えられた間質性腎炎から急性腎不全を呈した1例」、日本内科学会雑誌 第100巻 第5号・平成23年5月10日、p.1391。
<プロフィル>
和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している。