実名・顔出しで陸上自衛隊内での性被害を告発した五ノ井里奈さん(撮影/岩下明日香)
実名・顔出しで陸上自衛隊内での性被害を告発した五ノ井里奈さん(撮影/岩下明日香)

 以前に同じ部署にいた女性隊員も同様の被害にあっていたらしく、その女性と入れ替わるようにしてCさんがターゲットにされた。先輩の女性隊員には「上に報告した方がいい」と助言されたが、Cさんはできなかった。

「私の職種は全部で数十人しかおらず、その上官を避けて仕事はできませんでした。その上官がいる限り、ずっと関わらなければならない。それはもう耐えられないと思いました。もし上に相談して、その上官が飛ばされたとしても、うわさが流れて自分が居づらくなるだけです。海上自衛隊は職種の縦のつながりが強いため、同じ職種の人からセクハラを受けたら、もう逃げ場がないんです」

 心身ともに疲れ切ってしまったCさんは、キャリアを諦めた。

「船に乗っていると、本当にどこへも逃げられません。嫌なら、海に飛び込むしかないんです。私にもやりたいことがありましたが、諦めて船を降りました。同じように心を折られて辞めていく人は少なくないはずです」

 五ノ井さんの告発を受け、Cさんはこう訴える。

「自衛隊は、国民からの税金で支えられています。1人の隊員に対して多額の税金がかかっているのに、その役割や使命を考えずに、志の高い隊員を追い込んで辞めさせてしまうようなことは、これ以上あってはならないはずです」

 もう1人、海上自衛隊の女性自衛官の事例を紹介する。

 2010年に入隊して10年間在籍したDさんは、最初の配属先が10人中女性は1人だけという環境だった。汚れ作業をするためにつなぎに着替える時でさえ、Dさんは男性隊員と同じ部屋で、体を隠しながら素早く着替えていたという。

「男性隊員の宿舎は現場の近くにありますが、女性の宿舎は離れたところにあって、帰って着替えて戻ってくると遅れてしまうんです。一度、私だけ遅れて注意を受けたことがありました。一番階級の低い私が、遅れて到着するわけにはいかないので、男性と一緒に着替えていました」

 女性のDさんだけ男性隊員とは別の居住区に住んでいたので、大切な情報でも遅れて伝わってきた。それなのに男性隊員からは「なんで知らないんだ」と注意され、「仕事ができない」というレッテルを貼られた。その後、ケガなどが重なり職種を変更すると、そこには女性の先輩がいた。女性特有の事情を考慮した細かいルールも整っていた。男性隊員に引け目を感じることもなくなった。

 ある日、Dさんに前の部隊にいた男性の上官が声をかけてきた。「おまえ、○○とセックスしたのか」「処女だろ、これ読んどけ」と、Dさんにエロ本を渡そうとしてきた。以前だったら、「え~!」と、笑顔で驚いたふりをしたが、もう仕事で関わることがなくなったことから、毅然とした態度で「キモイんで、不快です」と言った。すると、上官は船の壁をボンっと殴って去っていった。

「あとから、またその上官が近寄ってきて、ぼそっと『さっきは、ごめんな』と言ってきました。謝るくらいなら、最初からしなければいい。私は、(前の部署では)ただ見下されていただけだったんです。きっとこれまで若い女性隊員から言い返されることがなかったから、逆ギレしたのでしょう」

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