作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、韓国ドラマのジェンダー感覚について。
韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」のシーズン1が終わってしまってさみしい。ここ数週間、ずっと水曜と木曜の夜は、ウ・ヨンウの世界に浸ってきた。漢江を渡る電車とともに大空をクジラが優雅に泳ぐ世界。静謐な法廷で優しい目をしたイルカと目があう世界。美しく幻想的な世界を現実のように見せた韓国CGの技術力、脚本の複雑で優しい深み、俳優たちの衝撃的な表現力、ドラマそのものがみせる自由な世界観に圧倒される時間でもあった。韓国ドラマ、本当にすごい。
自閉スペクトラム症の弁護士の女性を主人公にした「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」は韓国では瞬間視聴率20%の回もあり、最終回の都市部の視聴率は19.21%にもなったという。Netflixでも配信され、全世界のランキングも3位を記録した。非英語テレビ部門では1位を3週連続で獲得し、当然、日本のNetflixでもこのところずっと1位を保っている。もうわりと“よくあること”にはなってきたが、韓国ドラマの国際的な大ヒット作がまた生まれた。
単純に比べるわけにはいかないけれど、日本のドラマはなぜこれができないのだろう……という視点で韓国ドラマを見ると、たいていジェンダー問題に行き当たってしまう。当たり前のように当たり前の女性が描かれる。当たり前のように性を巡る社会の理不尽が描かれる。当たり前のように女が権力のある場にいる。当たり前のように男社会のダメがダメとして描かれる。男の土下座に留飲を下げるような世界から見ると、近代と現代くらいに時代が違っていませんか……。それほどに民主主義革命と、フェミニズムの大衆化を経た後の韓国社会のドラマの力はさらに圧倒的に多くの人を惹(ひ)きつける。
韓国社会のジェンダーを巡るリアルも、しっかりと描かれていたのだろう。たとえば主人公の同僚で、「なぜウ・ヨンウは特別扱いされるのか。障害があるからか? だったら障害はなく頑張っている俺の努力はどうなる? 障害があるからといって過剰に優遇するのは逆に不公平だ」と憤る男が出てくるのだが、それは若い世代の男性の率直な不安でもある。「フェミニズムはいきすぎだ、今は女性のほうが優遇されすぎている」といったフェミニズムへのバックラッシュをあおった右派政党が若い男性に支持されている韓国の今を体現する役回りでもあった。