「登山前には気象情報を確認しておくこと。荒天が予想される場合や、途中で天気が急変した場合は、勇気をもって中止を決断してください」(齋藤医師)
■ふだんからの運動で体力をつけてから挑戦する
富士山では今年も「疲労で歩けない」「体力の限界」という理由で救助要請をする人が相次いでいる。富士山の登山道は砂地がずっと続くので着地の圧力は緩衝されるものの、長い距離を歩かなければならない。とくに下りは、上りで筋力を使い果たした後なので、途中で痛みが出て歩けなくなったり、足がもつれて転倒しやすくなる。齋藤医師は言う。
「ふだんろくに運動もしていないのに、2000~3000m級の山にいきなり挑戦する人はいませんよね。ところが富士山は老若男女多くが登っているから自分も大丈夫だろうと、軽い気持ちで行ってしまう」
最も有効な対策は、ふだんから運動しておくこと。2日に一度、できれば毎日、階段や坂道の上り下りを中心にある程度の距離を歩く。山登りでは、足を地面にフラットに置くと一番摩擦が大きくて安定するため、坂道や階段の上り下りでもフラット置きを心がける。初心者向けの山に何回か登っておくと、体力的にかなり余裕ができるという。
齋藤医師はこう続ける。
「登山は平地より厳しい環境で体を動かすため心筋梗塞(こうそく)や脳卒中(脳血管障害)なども起こしやすい。富士山では毎年数人死者が出ています。富士山には救護所はありますが、できることは限られていますし、平地のようにすぐに救急車が来るわけではありません。持病があるなど体調に不安がある人は特に十分準備をし、注意して登るようにしてください」
(文・熊谷わこ)
【プロフィル】
齋藤繁(さいとうしげる)
群馬大学医学部附属病院・病院長。健康登山塾・塾長。日本登山医学会、日本山岳会、日本山岳・スポーツクライミング協会の各種委員を歴任。「病気に負けない健康登山」(山と溪谷社)などの著書がある。