「標高第2位の北岳(3193m)での発症はそれほど多くありませんが、さらに600m高い富士山では登山者の半数以上が何らかの急性高山病の症状を感じると言われています」

■最も有効な対策は高度を下げること

 高山病の症状が出たら、どうすればいいのか。齋藤医師が応急処置として勧めるのは、「くちすぼめ呼吸」だ。鼻から大きく息を吸い込み、口笛を吹くように口をすぼめて、しっかり吐き出す。肺が隅々まで広がり、効率的に酸素を取り込むことができる。

また、鎮痛剤や吐き気止めを持参している場合は、服用すると症状がやわらぐ。

齋藤繁(さいとうしげる)
群馬大学医学部附属病院・病院長。健康登山塾・塾長。
齋藤繁(さいとうしげる) 群馬大学医学部附属病院・病院長。健康登山塾・塾長。

「ただし、薬では一時的に症状を抑えることしかできません。最も効果的な治療は、下山してより気圧の高い環境に移動すること。下るときに急ぎすぎると酸素消費量が増加し、症状が悪化するので、ゆっくり下りましょう」

 体には高度に順応しようとする機能が備わっているが、個人差が非常に大きい。高度順応力が高い人でも一気に高度を上げたり、寝不足や疲れた状態で登るなど体調や行程に無理があれば発症しやすくなる。発症を防ぐには、以下のような対策が有効だ。

●登山前は十分な休養を取る

●ゆっくり登る

●高所では必要以上に激しく体を動かさない

●行動中はときどき口すぼめ呼吸を心がける

●適量の水分補給をする(尿が透明なら大丈夫。濃い黄色なら脱水気味)

●クッキーなど糖質を多く含む栄養を補給する

●慣れていない人は高所にとどまる時間をできるだけ短くする

■ご来光にこだわらず、無理のないスケジュールで

 富士山の登山者には、頂上でご来光(日の出)を見ようと、前夜に5合目を出発して徹夜で登る、いわゆる「弾丸登山」をする人も多い。しかし齋藤医師はこう話す。

「普段は寝ている時間に睡眠不足の状態で登ることになり、体への負担が大きい。また、ご来光に間に合うよう、急ぎ足になれば、高山病にかかりやすくなります。暗い中を懐中電灯やヘッドライトの明かりを頼りに登るので、転倒の危険もある。無理のない登山をするなら、ご来光にこだわらないほうがいい」

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