「あなたの封筒を燃やしたら、灰の形、あがる煙が蛇のようでした。蛇は魔です。これ以上の力は私にはない。私以上の先生を紹介しましょう」。次に登場したのは、声から判断して40歳代のテンジョウ先生である。

 テンジョウ先生は「災いのもとは財である。財が長男の命を失わせる」と、釈迦塔の購入を勧めた。釈迦塔は韓国の仏国寺に多宝塔と一対になって建てられているという。値段は1700万円だった。

「そんなお金はありません」と拒むA子さんに、田口が言い放った。「福岡銀行に千何百万円あるじゃありませんか」。A子さんはアッと思ったという。田口を信じていた気持ちが初めて揺らいだ。「おたくは豊田商事のようですね。信仰じゃなくて商法じゃないですか。私は変なところに引きずり込まれたようだ」とA子さんは言い返した。

 さらに12本買った高麗人参も余っているとつけ加えた。テンジョウ先生は「余っているのなら風呂に入れなさい。お墓にかけているおばあさんもいます」と平然と言い放った。網膜剥離にも効くと、うやうやしく売った霊薬を、風呂に入れろとは、とA子さんは納得できなかった。

 自分のお金はなくなった、と言い張るA子さんに、先生は「神さまにうかがいを立てる祈りをしてきましょう」と別室に退いた。戻ってくると先生は、「できるだけでよい。あなたの努力がわかればよいと神さまはいっています」と告げた。

 翌8日、霊場から迎えがきた。テンジョウ先生が「どれくらい努力しましたか」と尋ねた。「あなたは年金で生活を保障されている。すっからかんになってもいいから、財の因緑を断ち切りなさい」と追い打ちをかけてきた。遂にA子さんは「1100万円ぐらい都合できます」といってしまった。

 田口、ノムラにつき添われて最後の銀行まわりをした。全額解約しても1177万円にしかならなかった。テンジョウ先生は白の釈迦塔に数珠をつけて、1200万円要求した。残り23万円は6月21日までに支払えと、相手はいささかも容赦しなかった。

 印鑑にはじまって、これまでに支払った金額は2676万円に達する。預金がまったくなくなったのを承知の上で、相手は23万円出せというのである。A子さんが友人に連れられて北九州市立消費生活センターに来たのは、支払い期限の2日前、6月19日のことだった。

※朝日ジャーナル1986年12月5日号から

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