安倍晋三元首相銃撃事件を機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政界の癒着が次々と明るみに出ている。そもそも旧統一教会が話題に上ったのは1980年代。印鑑や壺(つぼ)などを高額な値段で売りつける「霊感商法」が社会問題となった。そのきっかけとなったのが1986年に「朝日ジャーナル」が始めた霊感商法追及キャンペーンだった。当時、問題視された旧統一教会による霊感商法とは、どのようなものだったのか――。ここでは、朝日ジャーナル1986年12月5日号に掲載された記事を紹介する。
※以下に記載された年齢、所属、肩書きなどは、すべて当時のまま
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悪運を払ってやると称して壺、多宝塔を売りつける霊感商法の被害がふえている。朝日ジャーナルの調べでは、ここ2年半に1万件、40億円の被害が出た。この数字は82年に国民生活センターが、6年間の被害としてまとめた2600件、17億円をはるかに上回っている。とくに神奈川県の被害額11億円には驚くほかない。被害者たちは「原理運動系の販売員に騙された」と訴えている。県や市による苦情処理にも同一グループと思われる会社が次々引っぱり出されている。
【事例】
雪の日にみた顔
信じていたのに最後の預金まで
北九州市の主婦A子さん(48)は、ほとんど全盲に近い。左目が光を感じる程度で、身障者等級一級である。生後20日で網膜剥離を起こした。
何者かに襲われたら防ぐ手だてがないと、A子さんはいつも怯えて暮らしてきた。彼女を守るべき夫(50)も一級の盲人だった。A子さんは自分の予感能力は強い、と思っていた。その能力を磨いて、危険予知に役立てたかった。
後日、「耳なし芳一に取りついた亡霊」と彼女が感じるようになった訪問者が玄関のベルを鳴らしたのは、1984年1月7日である。「人相を見てあげます」といって、部屋に上がってきた。その女性は玉本和子と名乗り、「30代前半の、疲れた声の持ち主」だったという。