作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、日本のアダルトマーケットについて。
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先日、久しぶりにドイツから商談相手が来日した。「地方のアダルトショップの状況を知りたい」と、主に九州地方のアダルトショップを何日かかけて回ってくれたのだ。
私の会社は海外のセックスグッズを日本の市場に卸す仕事もしている。女性向けの商品ばかり扱っているので、男性向け商品が中心の日本のアダルトショップとの取引はあまりない。そのため海外の企業から「なぜ、うちのバイブが日本のアダルトショップで売れないのか? もっと努力してほしい」とプレッシャーを受けることもある。最近は「韓国のほうが売れている。日本のほうが人口も多いのに、なぜ売れない?」という圧をかけられることも増えた。それくらい、日本のアダルトマーケットは、女性向けのバイブが売れない。もちろん、私の努力も足りないとも思う。日本のアダルトショップが、あまりにも苦手すぎて営業に行けないのだ。2次元の幼女・少女のエロイメージであふれているアダルトショップに入ると、それだけで心臓がばくばくしてしまったりして、とてもビジネスの話などできなくなってしまう。
だから今回、ドイツからわざわざ来日し営業に行ってくれるなんてありがたく、私の会社のスタッフにも同行してもらったのだが……1週間かけて地方を回り東京に戻ってきた彼女(30代)に会って驚いた。行く前とまるで雰囲気が変わっていたのだった。行く前は「全国のアダルトショップに販路を広げたい」と前向きな感じだったのが、「難しいですね。ヤバイですね。おかしいですね。日本ヘンですね。気持ち悪いですね」という相当な後ろ向きに変わっていたのだった。
「……何がありました?」と、おそるおそる聞く。
「合法とは思えないものが売られていて、ショックを受けました」と彼女が答える。
幼女・少女を模した2次元エロのことだ。ドイツをはじめ多くの国では、たとえ2次元であっても、幼女や少女を虐待する表現物が流通するのは難しい。それが日本では堂々と販売されていることに言葉を失う思いになったという。さらに、男性向けのマスターベーショングッズの多様さ、その暴力性にもショックを受けたとも話してくれた。