■検査で異常なしはリスクゼロではない
診断では、医師との面談、血液検査などの一般的な検査、知能・記憶・言語等の高次脳機能の問題を評価する「神経心理学的検査」、「脳画像検査(CT、MRIなど)」がおこなわれる。
物忘れがあっても検査結果が認知症のレベルまで達しておらず、日常生活では問題なく過ごせている状態であれば、正常と認知症の中間ともいえる「軽度認知障害(MCI)」の可能性がある。
さらに、本人や家族は物忘れを訴えているのに検査では記憶障害自体を確認できない「主観的記憶障害・SMI(主観的認知障害・SCI)」もある。慶応義塾大学病院精神・神経科教授の三村將医師は「そのなかには心配が強すぎるあまり、実際は物忘れをしていないのに、していると思い込んでしまう『健忘恐怖症』も含まれる」としたうえで、次のように話す。
「このような人たちは、昔は『考えすぎ』と言われていました。それが近年の研究によって、SMIやSCIの人たちは、将来認知症になるリスクが高いことがわかっています。そのため、検査で異常がなくても患者さんが物忘れを心配しているのなら、うつ病や不安症などの精神的な病気の可能性やその方の性格なども考慮しつつ、十分な診察をおこないます」
老化による物忘れと初期の認知症を明確に区別することは難しいが、病気を疑う特徴的な症状もある。例えば「何を食べたか」「誰に会ったか」ではなく「食べたこと」「出かけたこと」自体を忘れるなど、行動や経験の全体を忘れる場合がそれだ。日常生活の行為も記憶に支えられているため、電子レンジの使い方や料理の手順がわからなくなるなど、できていたことができなくなる場合も病気の可能性があるという。
認知症が疑われる症状は物忘れだけではない。予定どおりに行動できない、順序だてて説明できない、よく知る場所で迷う、言葉がうまく出なくなる、誰もいないのに誰かがいると言う、怒りっぽくなるなどの症状がみられることもある。