当日の中野サンプラザ
当日の中野サンプラザ

「僕の血と汗と涙をこのホールは吸っている。走馬灯のように思い出が蘇ってきます。さっきは音がデッド(響きが悪い)だなんて悪口言ってごめんな、サンプラ」。拍手がいつまでも鳴りやまない。「今日は珍しく感傷的になっています」とマイクに向かう達郎さんの目に光るものを見た気がした。アンコールでコーラスの女性が一人増えた。長袖のボーダー姿の、手足の長い少女のような佇(たたず)まいは、おそらくサプライズで登場した竹内まりやさん。一挙に大学の音楽サークルのノリに。アーティストも観客も音楽を愛する若者に戻った。

「大変な時代になったけど。心の安らぎをもって、冷静に寛容に、助け合っていきましょう。カッコよく年をとっていきましょう」と達郎さんが手を振った。「そして、ありがとう。サンプラザ!」

 彼のこの言葉で答えがわかった。中野サンプラザのキャパシティは2000人余りだが、最後の1人のオーディエンスがサンプラザというホール自体だったのだ。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2023年3月10日号

暮らしとモノ班 for promotion
2024年の『このミス』大賞作品は?あの映像化人気シリーズも受賞作品って知ってた?