ゴハンは朝晩2回。食器は使わなくなったアルミ鍋。基本的に人間の残り物を食べていた。夜に鍋物をしたらその残り汁に冷やご飯とオカズの残りを入れ温めてやると、顔を洗うようにムシャムシャ食べる。そんなだからドッグフードには一切見向きもしない。我々家族も「犬のえさに金をかけてなんになる?」という感覚だった。一番好きだった(と思われる)のは、味噌汁の残りにご飯と鯵の開きの残骸をぶち込んだもの。あんなに硬い頭と骨をガリガリと齧ってのみ込んでいた。ベンジー、凄えなぁ、と思いながら眺めていたっけ。
「この鯵の残り、ベンジーが居れば食べてくれたのに……」と言う私に妻が「いや、それ、明らかに塩分摂りすぎだから! 味噌汁と干物なんて絶対ダメでしょ!?」と全否定。そうだったのか。ベンジーの人生、否「犬生」11年。その時代なら長生きか。平成になる直前にこの世を去ったベンジー。まさに昭和最後の日本の飼い犬。令和のワンちゃんは幸せだ。
ちょっとだけごめん、ベンジー。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2023年3月10日号