春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「昭和」。

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 昭和53年生まれの私は子どもの頃の原風景が『昭和』です。みなさん、今年は昭和98年ですよ。何でも昭和で勘定したほうが早くないですか?

 先日「骨まで食べられる干物」なるモノを頂いた。なるほど、圧力調理で頭までサクサクいけて美味しい。こんな商品、昭和にはなかったなぁ。鯵の干物を食べ終えると目玉の硬いところがふたつぶだけ残った。なんか魚を食べた気がしない。どれだけ上手に魚を食べるかが、昭和男子の肝だと思っている私にはちょっと寂しい。

 焼き魚の骨を捨てる時、私はいつも「ベンジーが居ればなぁ」と呟く。ベンジーとは幼い時に飼っていた雑種犬。私が生まれる前、姉が白い雌犬を拾ってきた。その「シロ」がどういうわけか孕(みごも)って、数匹の子を産んだ。それぞれを知り合いに分けて、我が家に残ったのが母親シロとその子ベンジーだ。犬が主役の映画『ベンジー』からとったらしい。シロよりは捻りがあってよろしい。私が物心ついた時、シロはもう居なかった。私よりひとつ年上のベンジー。5、6歳から散歩は私の係。昭和の犬の散歩は乱暴だ。令和はそんな小さな子に犬を散歩させないだろう。ベンジーがおしっこをしてもそのまま。ウンコをしてもそのままだったような気がする。うちの近所は舗装されてない道が多かったので便は全て「土に返す」システム。日本人が犬のウンコを持ち帰るようになったのはいつからなのだろう。昭和の飼い主はそんなことしてなかったんじゃないか。

 もちろんベンジーは家の外で飼っていた。座敷犬なんて金持ちの道楽だ。犬の仕事は「番」。犬小屋に毛布が一枚。雪が降るくらい寒くないと家には入れない。

 去勢する、なんて感覚はなかったから発情期になるとクルクル回ったり落ち着かない。やたらにしがみついてきてクンクンしてきた。私は意味もわからず「ベンジー、おかしいよー!」と訴えても、親は「ははは!」と笑うばかり。ははは、じゃないよ。他人の発情を笑うな。可哀想に。

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