記者がMidjourneyで生成した渋谷の風景。
記者がMidjourneyで生成した渋谷の風景。

「新しいテクノロジーが出てきたときに、芸術の世界では、それは古いものを淘汰しません。選択肢が増えるだけです。やがて『AIのほうがいいよね』という人も出てくるでしょう。AIのアートは一つの大きな領域に発展するだろう、と私は思います」

 そう話すのは、森美術館前館長で、美術評論家・キュレーターの南條史生さんだ。

 南條さんは、画像生成AIは、結局はとても人間的なものであると考えている。AIに対して、インプットするプロンプトを何にするかを決めるのは人間であり、AIが作り出したもののどれを自分の作品として出すかを決めるのも人間だ。その選択のところに自分の存在、つまりアイデンティティーが生じ、このことが人間的な重要な部分として残るのではないか、と。

「たとえばテクノロジーを使ってポジティブなことをやるか、ネガティブなことをやるか、それを見抜いていく必要があるのと同じように、このAIの発展も、どう私たちが使っていくか、人間の叡智や知恵がもっと重要になってくる時代になるのではないでしょうか」

■著作権侵害を回避するために

 AIが描いた絵によるトラブルを回避するには、どんなことに気をつければいいのか。STORIA法律事務所の柿沼太一弁護士に聞いた。

「これまでAIは基本的にビジネスで使われていましたが、一般の人も簡単に画像生成AIが使えるようになっているため、一般の人がトラブルに巻き込まれる可能性はあります。もしトラブルになるとしたら、著作権の侵害が第一に考えられます。

 それを回避するには、まずは既存の作品と同じ作品を生成しないことです。たとえばディズニーやジブリなどの既存のキャラクターはもちろん、誰かの作品など既存のものと知っていて、それと同じ作品を生成するのは、基本的にアウトです。この点はAIを使っても使わなくても同じです。

 ただ、AIの特性上、大量の作品が学習用データとして用いられていることから、偶然、既存の作品と同じ作品がAIで生成され、そうと知らずに発表してしまうことが絶対にないとは言えません。それが著作権侵害になるかは見解が分かれます。

 仮に著作権侵害になる、という立場をとった場合、著作権者からそれ以降の使用を禁止されたら、それ以降使用することはできません。もっとも、どの絵がAIの学習データに使われているかは一般の人には分からないので、損害賠償を負担する責任は負わないと考えられます。

『Stable Diffusion』や『Midjourney』はプロンプトを入力して画像を生成するものです。ではそのプロンプトに著作権は発生するのでしょうか。もし著作権が発生するとしたら、創意工夫された長いプロンプトについてでしょう。短い単純なプロンプトにはおそらく著作権は発生しません。

 画像生成AIについては、これから色々と議論されていくことと思います。たとえば日本では、AIの開発のためであれば、著作権者に断らずに著作物を機械学習させることは、法的には原則問題ありません。ただ、AIに学習させたくないイラストレーターやアーティストもいるでしょう。その場合、どうすべきか。『AIの機械学習禁止』などとクリエイターが一方的に表明したとしても、法的に禁止はできません。

 また、AIを利用して完全自動的に生成された著作物には、現在著作権は発生しないと考えられています。今後、そのようなAI生成物にも著作権を与えるべきかなども議論されています。

『Stable Diffusion』のモデルがオープンソースで公開された以上、技術の発展を止めることはできません。議論はしっかりとやるべきですが、個人的には、過度な法規制は望ましくないと思っています」

(編集部・大川恵実)

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