■こんなに不味そうに食べるシーンは、見たことない
――最初の、唐揚げを食べるシーン。唯さんが食べることが嫌いな主人公なので、唐揚げの描写がめちゃくちゃ気持ち悪く書かれています。
あの描写に関して言うと、いろんな編集さんから「こんなに不味そうに食べ物を食べるシーンは、見たことない」って言われました。実際、あのシーンを私、食べながら書きましたね。肉の破片はこういう風に歯の隙間に入ってくるんだな、にゅるにゅるしているんだな、油が出てくるんだな、とかを感じながら……。だから、あのシーンを書きながら唐揚げをめちゃくちゃ食べましたね。
――唯さんの周りの友人や親戚、あと泉さんなど……本作には多くの人物が登場します。沢山の人物を書かれる時に、書き分けなど意識されていることはありますか?
書き分けは、実はそんなには意識していないのですが、2つ考えていることがあります。1つは、そのキャラクターが身を置いている状況や環境において、その単語自体を知っているかどうかということ。
例えば、私はこの年齢でその単語は知っているけれど、小学生が出てきた時に、その子がその単語を知っているかって言ったら多分知らないとか、テレビが無いような環境で育っている子だったら、きっとこの語彙は出ないよなとか。使う単語は選んでいます。
あと、私が特別に意識しているわけではないんですけど、結構言われるのが「キャラクターに手厳しいよね」。いい意味で、そこまで愛情がないと言っていただけることがあります。このキャラクターだから悲しい思いはさせないとか、そういうことは多分、無いです。
――1人1人、どういう環境で育ってきたとかは……
うん、考えますね。そこから思考が生まれてくるところがあるのかな、という風に思うので。でも、書き始めたら全然考えてないかもしれない(笑い)。
■人間に一貫性はない、矛盾することをやっている
――登場人物のひとり、矢島さんは、最初はすごく嫌な奴だと思って読んでいたのですが、最終的にいい面も見られて。
矢島も普通に大学の友達からしたら、きっとめっちゃいいやつで、他のキャラクターもそうなんですよね。牡蠣フライを勧めてくるおばさんも、悪い人みたいに映っちゃっているんですけど、違う作品に出てきたら料理が上手くて、気遣いができて、場を明るくしてくれるおばさんってなると思う。
人間って私、一貫性はないと思っているので。よくキャラクターに一貫性を持たせましょうみたいことが書いてあるけれど、そんなことないよね、みたいな。矛盾することをやっているよねと思うので、そういうところは縛られないようにはしてます。