30秒ほど立ち尽くし悩んだが、決めた。店に戻って言おうと。ただし、一口食べてしまったので、一応、間違っていたことは伝えて、肉まんを買おうと。
店に戻った。レジには先ほどの男性店員さん。僕より年上の方だろう。僕は勇気を出して、右手のあんまんを出した。そして「すいません。さっき買ったのが肉まんじゃなくて、あんまんだったんですが……」と言って、そして「肉まんを買います」と言うと、その店員さんはすごく素敵な笑顔で「交換しますよ。すいませんでした」と言って、僕の右手のあんまんをさっと取って、肉まんを出してくれたのだ。一口食べてしまったのに。
その店員さんの優しくスピーディーな行為は、ちょっとした魔法に見えた。だって、悩んでいた僕の右手のあんまんを肉まんに変えてくれたのだから……。
店を出て、右手の肉まんを食べて心から「うまい!」と思えた。このおいしさは、肉まんだけのおいしさなのではなく、あの店員さんの素敵な対応も含めてのおいしさなのだろう。
肉まんを食べながら夜道を歩く50歳のおじさんの足元は、小さな幸せにあふれて、軽かった。
ファミリーマートさん。ありがとう。
■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)、長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が好評発売中。漫画原作も多数で、ラブホラー漫画「お化けと風鈴」は、毎週金曜更新で自身のインスタグラムで公開、またLINE漫画でも連載中。「インフル怨サー。 ~顔を焼かれた私が復讐を誓った日~」は各種主要電子書店で販売中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)が発売中。