特別展示されていた瑞巌寺の秘仏の一つ、不動明王像=2021年9月1日、宮城県松島町
特別展示されていた瑞巌寺の秘仏の一つ、不動明王像=2021年9月1日、宮城県松島町
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 お寺や博物館で出会ったことのある仏像。如来、菩薩、明王、天部……それぞれの姿かたちが伝える仏像のメッセージを学べば、仏像の味わい方もきっと変わってくるはず。週刊朝日ムック『歴史道 Vol. 23 仏像と古寺を愉しむ』では、正しい仏像の見方を特集。ここでは「明王」と「天部」をひもとく。

【イラスト】仏像「明王」「天部」を徹底解説!

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 仏教は慈悲の宗教であるが、お寺に行くとなぜか怖い顔をしている仏像がある。この怒り、じつは慈悲の怒りである。明王は、本来は如来であった。しかし優しい顔をして説法をしていても、耳を傾けなかったり、説法の内容を守らない人がいる。そういう人たちのためにあえて、忿怒の表情をしていると考えれば分かりやすいだろう。

 明王は、密教が成立してから制作されるようになった仏像だ。日本では、空海や最澄が中国に渡り、密教が伝来した平安時代以降に制作されるようになる。怖い顔をしている仏像が安置されていたら、真言宗や天台宗など密教系のお寺だと推測できる。その姿は一様ではないが、怖い顔をしているのは共通する。さらに甲冑を身に着け、武器を持っていたりする。

密教と共に日本へ伝来した
大日如来の化身 

 また多頭の明王、多臂の明王もある。身体にほどこされた色も様々で、日本では不動明王が最も多く制作された。

 不動明王は、密教の中心である大日如来の化身とされている。通常は右手に剣を持ち、左手に羂索という縄を持っている。逆だった炎髪の明王が多いなかで、不動明王は髪を束ねて左肩に垂らす。これは弁髪という。台座は蓮華ではなく、瑟瑟座というゴツゴツした岩のような表現だ。後ろにある光背は、一見すると炎の表現。しかし、よく見ると鳥の姿が確認できる。これは迦楼羅という鳥が舞っている様子を形作った光背である。

 不動明王は、左右に童子の像を安置することがある。矜羯羅童子と制多迦童子である。これを不動三尊という。また不動明王は、4体の明王を伴うことがある。これを五大明王という。

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