2位は、工業系大学を抑えて金沢美術工芸大学。大学通信情報調査部部長の井沢秀さんは、「自動車はデザインが重視されている。多摩美術大学や武蔵野美術大学などから就職する学生も多く、美術大学と親和性が高い」と話す。
各専攻の所属学生が約20人という、少人数教育が特徴。自動車メーカーへの就職は、ほとんどが製品デザイン専攻の学生だ。指導にあたる5人の教授は、いずれも企業の第一線で働いた経験を持つ。社会人経験を持つ教授陣による、現場感覚を生かした実践的な授業が強みだ。
「就職支援は、教員が持ち回りで担当します。企業とのパイプが太く、学生にも適切なアドバイスを与えることができます」(浅野隆教授)
3年次には産学連携の授業を実施。今年はスズキと連携し「これからの移動」をテーマに、2カ月間プログラムに取り組んだ。企業からはデザイナーが派遣され、学生を直々に指導。最先端のデザイナーから薫陶を受ける贅沢な授業だ。さらに企業や市から依頼を受け、金沢マラソンの完走メダルや、市の施設の広報関連のデザインにも取り組んでいる。一方で、同大の教授を長年務めた柳宗理の「工房教育」を継承し、ものづくりにも取り組んでいる。学生全員が溶接の技能講習を受講し、パイプや木を加工してフルサイズの椅子を制作。来年度は新校舎が完成し、全学生が利用できる大きな共通工房が完成する。
■女子学生も建設現場で施工管理体験
井沢さんは「建設・住宅業界は学生にとって魅力的な業種。採用人数が多く、就職する大学の裾野も広い」と話す。
建築系は理系学部にあって、女子学生が多いのが特徴。女子大でも2020年に武庫川女子大学が建築学部を設置した。23年には共立女子大学が、24年には日本女子大学が建築系学部を開設する予定だ。
建設・住宅業界の実就職率トップは芝浦工業大学。同大は1級建築士の合格者ランキングでも日本大学、東京理科大学と争っている。17年には工学部建築学科・建築工学科、デザイン工学部デザイン工学科(建築・空間デザイン領域)の2学科1領域を統合・再編し、建築学部建築学科を開設。同大としては初めて豊洲キャンパスでの4年間(大学院を含めると6年間)の都心一貫教育を実現させた。
「豊洲は東京都の中でも勢いのある地域で、新しいビルもどんどんできている。建築を学ぶには刺激があって良い環境」(就職・キャリア支援部友野範久部長)
建築に強い理由を、友野部長は「伝統的に建築が強く、OB・OGがさまざまな企業で活躍して一定の評価を得ているからでは」と話す。大学院への進学率も高く、21年度は全体の40%弱に対して、建築学部は54%が進学。6年間学ぶ流れができている。女子比率が高いのも特徴で、大学全体18%に対し、建築学部は35%。大学では、100周年にあたる27年までに女子学生比率を30%に伸ばすことを目標にしており、建築学部に期待がかかる。豊洲キャンパスには昨年度末に新校舎が竣工。建築学部は今年度後期から新校舎での学びが始まる。
2位以下も工業系の大学が並ぶ中、ものつくり大学が6位と健闘した。技術者の育成を目的に01年に開学した若い大学で、大学総長を務めた哲学者、梅原猛氏が命名した。授業は実技実習が6割、講義が4割という実務中心。教授は半数以上が企業出身で、さらに200人以上の非常勤講師が実習の補助にあたる。キャンパスに設けられた建設棟には大規模な実習場も。
「学生たちは、実際の現場と同じように足場を組んで、フルサイズの東屋を建てています」(学生課 斉藤課長)
2年次には6月上旬~8月上旬に建設現場でインターンシップを行う。最近では女子学生も増えてきたという。
「現場自体、きれいなトイレやパウダールームがあったりして、イメージが変わってきました。以前は設備上の問題から女子学生が断られる現場も多かったのですが、最近はずいぶん減ってきましたね」
1年次から授業に「社会人育成講座」が組み込まれており、仕事に対する意識を高めている。さらに年に1度大学で企業研究交流会が開かれ、昨年は3日間に分けて170社が来学した。ほとんどの学生が施工管理職をめざすが、中には設計やデザイン、宮大工などに進む学生もいる。
自動車業界でも建設・住宅業界でも、企業と連携した実践的な教育を行っている大学が就職実績もいいようだ。世界規模で競争が激化し、技術が日進月歩で革新しているいま、大学にも新しい教育が求められている。
(柿崎明子)
※AERAムック『就職力で選ぶ大学 2023』より