作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、安倍元首相の国葬ついて。
* * *
国葬、強行されましたね。
菅元首相のエモーショナルな演説、安倍さんの「おちゃめ」な感じを演出するピアノ演奏姿とか、内輪の葬式にしか見えなかった。安倍さんて、そんなに愛されていた人でしたか?
自然災害に苦しみ、不況にあえぎ、コロナ禍が癒えない今、16億6千万円という税金を使った葬儀が、本当に必要な儀式だったのか。反対の声は大きく、支持率も下がっているにもかかわらずの国葬強行は、岸田さんって声を聞く気がそもそもないんだね、とハッキリ教えてもらったようなものだ。
国葬の日、中継用ヘリコプターが飛ぶ東京の空を見上げしみじみ心に浮かんだことは、ただ一つ。
安倍さんには苦しめられた。
心から、改めて国葬の日にそう感じている。安倍さんは性教育を後退させた。嫌韓感情を扇動した。「慰安婦」問題への無関心と無知を公然にし、被害者を幾度も絶望に追いやった。ジェンダー平等政策を骨抜きにした。貧富の差を激しくし、持つ者だけがより持てる社会になった。汚染水はコントロールされているとして五輪を誘致した。森友・加計、桜を見る会など、権力と金を巡る問題を起こしたにもかかわらず責任は一切取らず、自死者まで出した。沖縄を見捨て、辺野古埋め立てを強行した。そして山上容疑者のように、被害者が無数にいると指摘されていたにもかかわらず、旧統一教会にお墨付きを与え続けてきた。国葬で流れた動画では、安倍さんが「(過去の戦争に関係のない未来の日本人に)謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と言っている姿が「良きこと」のように描かれていたが、安倍さん自身が過去の加害を謝らず、歴史を忘却し修正することを臆面もなくしてきた。そしてそんな安倍さんに対し、メディアは萎縮し続けてきた。
ここひと月、国葬にモヤモヤしていればいるだけ、ふだん目に入らぬ葬儀や葬儀用の保険のCMが気になってきた。超高齢化社会において葬儀は巨大産業でもあるが、今の時代、できるだけ迷惑をかけず、できるだけ自己責任で……というのが主流だ。