球団史上2度目のリーグ連覇を飾ったヤクルト。その中心として大活躍したのが、不動の4番・村上宗隆だ。9月13日の巨人戦で2本のアーチを放ち、王貞治氏に並ぶ日本人最多記録タイの55本塁打に到達。打つだけではない。ベンチでは常に声を張り上げ、ナインを鼓舞する。その立ち振る舞いはまさしくチームリーダーだ。
そんな村上が試練を迎えている。128試合目で55本塁打を放ったが、その後は11試合連続でノーアーチ。安打も出なくなり、打率.337から318まで下がった。他球団のスコアラーはこう分析する。
「村上も人間です。打てない時期は必ず来る。確かに勝負を避けられることが増えているが、ミスショットも増えている。体の開きが若干早くなり、バットが遅れて出ているので早い球に差し込まれている。記録への重圧もあるでしょう。(9月12日のDeNA戦で)エスコバーに受けた死球が影響しているかもしれない。155キロの直球が右太ももを直撃したダメージが残っているはず。右足の踏み込みが甘くなり、打撃のメカニズムが狂っていることが考えられます。ただ一度打ち出すと止まらない打者なので、抜けた変化球は厳禁です。内角の速い球、外角低めに落ちたり逃げる球で勝負することを徹底するように、バッテリーミーティングで伝えました」
リーグ優勝を達成したことで自分の打撃に集中できるのはプラス面だが、一方で本塁打だけを狙う訳にはいかない事情がある。本塁打、打点はリーグトップを独走しているが、打率は中日・大島洋平が急接近している。本塁打記録だけでなく、「令和初の三冠王」の期待もかかっており、打率を下げるわけにはいかない。
ウラディミール・バレンティンが2013年に日本記録を更新する60本塁打をマークしたが、村上とは置かれた状況が全く異なる。ヤクルトを取材する記者はこう振り返る。
「バレンティンの時はチームが最下位に低迷しており、本塁打だけを狙う打撃が許された。もちろんその中で60本塁打を打ったことは偉業なのですが、村上の場合は打率を下げずに本塁打を量産することが求められるので、記録更新のハードルが上がる。残り数試合で本塁打の記録更新が厳しくなった時に、リーグトップの打率をキープするために欠場するのも選択肢だと思います。もちろん、試合出場は村上の意思に委ねられますが、三冠王のチャンスは野球人生でなかなかあるものではない。欠場しても決して批判されることではない」