特に他球団のファンは、これを見て妥当だと感じる人は少ないのではないだろうか。千賀も二桁勝利はマークしているものの、登板数自体は13試合と、1年間の約半分しかローテーションを守っていないことになる。メジャー移籍に対する強い要望を抑え込むには致し方ない部分はあると思われるが、この成績で2億円アップするというのは他の球団では考えられないだろう。さらに驚かされたのが武田だ。防御率こそ2点台ながら、4勝5敗という成績に終わったにもかかわらず、大幅アップとなっている。

 これは2022年中に国内FA権を獲得することを見越してのことであり、4年という複数年契約も結んでいるが、成績を考えれば異例のことであることは間違いない。また年俸がダウンしない複数年契約を結んでいる森唯斗(4億6000万円)と今宮健太(2億9000万円)も相当な高給取りとなっている。唯一松田だけが大幅ダウンとなっており、これは年齢を考えてとのこともありそうだが、全体的に見ても、他球団と比べて査定が甘いのではないかという声は出てきてもおかしくないだろう。

 ソフトバンクはとにかく使うところにはお金を使うという印象が強く、多くの育成選手を抱えていることも、二軍、三軍の施設を充実させていることも他球団との差別化となっていることは確かだ。育成選手からは千賀、甲斐、石川などが主力となっており、投資に対するリターンももちろん出ている。

 その一方で、育成で芽が出なかった選手に対しても、グループ会社への就職を必ず斡旋するなど、選手としての条件は悪くてもチャレンジしやすい環境を整え、一定の成果を出した選手には他球団と比べても好条件を提示するなどしているが、それによって選手にも甘えが出ている部分もあるのではないだろうか。先述した高額年俸の選手たちの今シーズンの成績を見ても、年俸に見合うだけの活躍をした選手は皆無と言ってよいだろう。

 もちろんチームを強くするためにはある程度の金額を投資することは必要だが、今のソフトバンクを見ていると無駄に高い年俸を払っているという感は否めない。チームを立て直すためにも、このあたりの査定についても再度見直していく必要はありそうだ。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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