岸井自身、「ORICON NEWS」(2021年1月11日配信)の取材に「お芝居をする上で、番手や役の大小で、向き合う気持ちを変えることは絶対嫌なんです」と答えている。物語の中では少ない出番かもしれないが、その人にも必ず人生があるというのだ。脚本家も、不要な人物を書くことはないから、「役に失礼のないようにしっかりまっとうしたい」という気持ちなのだという。「どんなにウザく見えるキャラクターでも、演じる私だけは味方になってあげたいという思いで向き合っています」という言葉から、彼女の演技に対する真摯な姿勢がうかがえる。
■リアルすぎる演技でCMが放映中止に
その細やかな演技が話題となりすぎて、CMが放送中止になるという珍しい“事件”もあった。
「2014年に放送された東京ガスのCMで、就職活動の厳しさに押しつぶされそうになる学生を演じ『リアルすぎる』と炎上して放映中止になったこともありました。それほどの影響力がある彼女の演技は、強いこだわりや理想像が根底にあるのでしょう。所属事務所も安藤サクラや門脇麦のいるユニマテで、クセの強い個性派ぞろい。周囲の環境も彼女の演技に影響を与えているのだと思います」(同)
10月10日放送のオムニバスコント番組「LIFE!秋」(NHK)では、コントにも挑戦する岸井だが、共演した内村光良も絶賛しているという。さらに12月公開予定の映画「ケイコ 目を澄ませて」では、耳が聞こえないプロボクサー役を演じる。こちらも予告編が公開されるや、「今年一番見たい映画」「予告編だけでも感動した」との声がSNSで相次いだ。
ドラマウオッチャーの中村裕一氏は、岸井の演技と今後についてこう分析する。
「どんな役を演じても存在感が確かで半端なく、確実に視線が止まる。それでいて悪目立ちせず、リアリティーを感じさせる彼女の演技は、作品世界の雰囲気を引き締める重要なピースの一つであることは間違いありません。テレビドラマでは、『モンテ・クリスト伯』の大学院生役や、『やけに弁のたつ弁護士が学校でほえる』の新人教師役など、すでに4年ほど前からその存在は目を引いていました。今年に入って『恋せぬふたり』『パンドラの果実』と、主演やヒロインを連投したのも当然の流れと言えるかもしれません。これから先、ますますドラマや映画の中心人物として起用されていくことでしょう。地に足のついた、人物の感情や思いがしっかり『伝わる』演技とともに、これからも活躍し続けてほしいですね」
次世代の演技派女優の筆頭として、岸井の活躍は今後ますます注目されるだろう。(高梨歩)