そして、稲田さんと出会った頃に話が及ぶと、
「稲田さんと出会ったときは大学生で、仕事もしていて、心理学の勉強や講座にも通っていた。自分は(大学のころ)親のスネをかじって生活していた。稲田さんを尊敬していた」
などと、とうとうと語った。
話は終わる気配がなく、親族についても語られ、
「稲田さんは、大好きな両親の面倒は自分で見ると言っていた。お兄ちゃんは信用していないと言っていた」
と気持ちを逆なでするかのような言葉を発していた。
自分勝手な宮本被告の言い分に、被害者家族として裁判に参加していた稲田さんの親族は、怒りからか、手にしていたペンを折り、「パチン」という音が法廷に響いた。
それでも、宮本被告は止まらない。
「5点目は…」「6点目ですが…」
そして、これまで被告人質問でも犯行についてはほとんど語ってこなかった被告が、争点になっているスーツに付着していた稲田さんの血痕について、
「どうやったら血がつくのか、私にはわかりません。証拠として意味があるのか。誰がつけたのかわからないのに」
などと反論し、
「(警察や検察が)証拠を捜査して見つけられないから、証拠隠滅と主張しているのではないか。裏を返せば見つけられなかった捜査機関の不手際」
「(刃物などを)用意していた、準備していた、(返り血を浴びるので上着を)カバンに入れていた、というが、そういう推測、推測ばかり」
などと捜査に対しても延々と批判した。
最後に求刑について、
「私は、死刑を望んでいます。来週の判決は死刑を宣告してください」
と述べ、ようやく終えた。時間にして47分。
最終陳述にしては異例の長丁場の上に、遺族への配慮のない言葉などに対し、傍聴席からは「こらあぁ」「何言うてるねん!」などの怒号が飛び、裁判長が「傍聴人は退廷してください」と注意するなど、法廷は騒然とした。
稲田さんの遺族の弁護士も「裁判や公判前整理手続きなど、宮本被告は主張できるチャンスがあったのに何もいわず、なぜ最後にあんなことを言い出すのか」と不快感をあらわにした。