「VAMOS」御茶ノ水校の教室にて(撮影/加藤夏子)
「VAMOS」御茶ノ水校の教室にて(撮影/加藤夏子)

 今、中学受験はこれまでにないほど過熱している。2022年度は首都圏の私立・国公立中学の受験者総数は約5万1100人と過去最多、受験率も17・3%で過去最高となった。東京23区に限れば、私立中学校への進学状況は文京区40・4%、港区39・1%など、都心部では4割近い小学生が私立中に進学する地域もある(東京都教育委員会『令和元年度公立学校統計調査報告書』)。

 塾経営者の視点から、富永氏はこの状況を「バブルであることは間違いない」とした上でこう分析する。

「近年、中学受験はどんどん大衆化しています。この先十数年はこの流れは止まらないと思います。現在、23区全体の中高一貫校進学率は23%ほどですが、それが10年後には40%くらいになる可能性もあります。今でもその傾向はありますが、中学受験が大衆化すればするほど、脱御三家、脱東大・早慶という流れは進みます。難関校に入れることが目的ではなくなり、ご家庭は『学歴×α』で中高一貫校の価値を求めるようになっています。たとえば、学歴は東大を100とすれば、早慶なら90、marchなら80など難易度によって満足度は上下します。しかし学歴にα(付加価値)をかけ算すれば、総合的な満足度は学歴以上の価値があるという考え方です。このαに何を求めるのかは家庭によって異なりますが、αの部分に中学受験の時間とお金をかけても『コスパがいい』と感じる親御さんが多いことは確かでしょう。それゆえ、東大や早慶なら公立高校からでも現役合格できる、という中学受験への反対意見はあまり意味がないと思います」

 そして、自身のパラレルキャリアを踏まえてこう続ける。

「学業だけでなく、仕事においてもこれからは“かけ算”で考える時代になると思います。私でいえば、塾経営50、サッカー代理人業50の能力でも、かけ算すれば2500になる。世の中を見ても、私のようなキャリアの人は見当たらないので希少性はそれくらい高くなるでしょう。これは上に価値を伸ばしていくだけでなく、もし片方の50がなくなったときのセーフティーネットにもなります。塾の生徒たちには、私のような生き方を見て、世の中の複雑さや面白さも感じてほしいですね」

 子どもたちが「多様性」を学ぶには、富永氏は最も適した講師かもしれない。(AERA dot.編集部・作田裕史)