これまで極めて消極的だった宗務行政のあり方からすると、文化庁が質問権行使に向けた基準づくりを行う専門家会議を設けたのは前進だろう。
質問権は1995年、多くの被害者を出したオウム真理教事件を契機として宗教法人法に盛り込まれた。一方で宗教界からは、質問権は所轄庁の調査権限を強化する「宗教法人管理法」ではないかと、大きな反発を招いた。そのような背景もあってか、これまで質問権が行使されたことは一度もない。
全国弁連による旧統一教会への質問権行使の求めに対して、川井弁護士によれば、当初、宗務課は「刑事事件がないと難しい」という言い方の対応をずっとしてきた。
ところが、2007年から10年にかけて、全国的な刑事摘発が相次いだ(特定商取引法違反11件、薬事法違反2件)。とりわけ09年の「新世事件」では「先祖の因縁がある。このままでは家族が不幸になる」などと不安をあおって印鑑を売りつけたとして印鑑販売会社「新世」社長ら7人が逮捕された。旧統一教会の渋谷教会も家宅捜索された。その後の裁判では、「事件の組織性も含めて、非常に緻密な認定がされました」。
東京地裁判決は「役員も販売員も全員が統一教会信者」「統一教会の信者を増やすことをも目的として違法な手段を伴う印鑑販売を行っていた」「相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」などと認定している。
「これで質問権を行使していただけるだろうと、宗務課に申し入れをさせていただきました。すると、今度は『あれは販売会社、別法人に対する刑事事件なので、できません』と言うのです。認定内容からして、それで質問権の行使ができないというのは、ちょっと違うんじゃないか、と思いました。宗務課とはそのようなやりとりがずっとありました」
かぎは「使用者責任」
しかし、今年7月、旧統一教会への恨みを募らせた山上徹也容疑者が安倍晋三元首相を銃撃した事件をきっかけに事態は動き出した。10月17日、岸田文雄首相は質問権を行使して旧統一教会の調査を行うよう、永岡桂子文科相に指示した。
「これまで(文科省の外局である文化庁の)宗務課は、宗教法人に対して干渉的なことは一切しない、という立場でしたから、今回な動きは解散命令請求に向けての大きな一歩であると考えています」
文化庁は専門家会議を開催し、11月上旬にも質問権行使の基準案が示される見込みだ。その後、宗教法人審議会に具体的な質問内容を諮問し、政府は年内の質問権行使を目指している。
川井弁護士は「極力迅速に、効果的に質問権を行使していただいて、できるだけ早く解散命令請求につなげてほしい」と訴える。