阿部和重さん(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
阿部和重さん(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
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 ロシア情勢、Pokémon GO、北朝鮮の最高指導者、イーロン・マスク、ジャニーズアイドル……。この10年の間に起こった事象を文学へと変貌させた新刊『Ultimate Edition』を上梓した作家・阿部和重に話を聞いた。前・後編にわたるロングインタビューでお届けする。

【写真】新作について語る阿部和重さん。

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 故郷の山形県東根市神町(じんまち)を舞台にした3部作『シンセミア』(2003年)『ピストルズ』(2010年)『Orga(ni)sm[オーガ(ニ)ズム]』(2019年)、そして、うだつの上がらない映画監督と北朝鮮からの女密使が<禁断の真実>を追うラブストーリー『ブラック・チェンバー・ミュージック』(2021年)など、数多くの話題作を発表し続けている阿部和重さん。同じく作家の伊坂幸太郎をして「“触るものをことごとく面白い文学に変えていく特殊能力”を持つ作家」と言わしめる阿部さんの新作は、約10年ぶりとなる短編集『Ultimate Edition』だ。登場するのは、世界各国の国家元首、オレオレ詐欺の受け子からテロを企てる若者まで、現代社会を象徴するキャラクターたち。予測を遥かに越えて変化し続ける国際情勢をリアルタイムで取り込みながら、圧倒的なエンタメ性と深刻なメッセージを兼ね備えた“フィクション”を提示し続ける阿部に、最新作について語ってもらった。

■新作短編集の作品タイトルはすべて実在する楽曲名

――新作「Ultimate Edition」は、2013年以降に発表した短編16作を収めた作品。2013年に出した短編集『Deluxe Edition』と同じく、各作品のタイトルは基本、実在する曲名です。

『Deluxe Edition』のコンセプトは気に入っていたし、次に短編集を出すときも踏襲したいと思っていました。『Ultimate Edition』は『Deluxe Edition』以降に発表した短編で構成されていますが、初出の段階では別のタイトルが付いていたものもあるんです。あらかじめ内容やテーマが決まっていて、依頼を受けて書いた掌編がそうなんですが、それらの作品は改題しています。

――「Sound Chaser」(初出/朝日新聞2014年1月1日付、広告特集「もう一人の嵐たち」)、「Watchword」(初出/『ダ・ヴィンチ』2016年4月号「書き下ろしA.B.C‐Z小説」)などもそうですね。

 はい。「Sound Chaser」は朝日新聞の元旦紙面の企画に参加したときの作品です。アイドルグループ「嵐」の各メンバーをモチーフにした作品を5人の作家が書くというもので、わたくしは大野智さんを担当しました。この企画は注目度が高く、嵐のファンの方たちがTwitterなどで感想を投稿してくれて。自分の作品に対する反応に新年早々たくさん触れることができて、貴重な機会になりました。それまでわたくしの作品を読んだことがないであろう方たちが熱心に読んでくれて、純粋に評価してもらえたのも嬉しかったですね。

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森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

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