人間を鬼化から救うものは、人の心だ。憎しみの果てへと向かう人間を、憎しみからすくい上げるのは、平凡な日常の中で自分に向けられてきた、優しい人たちの「笑顔」の記憶だ。
もう死んでしまった家族との邂逅、彼らから伝えられる言葉が、禰豆子を「心の鬼化」から守る。そして、こののち、善逸の、伊之助の、鬼殺隊の仲間たちの笑顔の記憶、兄の優しいほほ笑みが禰豆子の心を救い出す。
禰豆子が「真の笑顔」と「言葉」を取り戻した時、彼女は「人間としての生」を再び獲得するだろう。禰豆子がほほ笑む時、『鬼滅の刃』の物語が動きだす。「刀鍛冶の里編」では、その重要な一歩を目にすることができるだろう。
◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が発売中。