人工知能のベンチャー企業、プリファードネットワークス(Preferred Networks、PFN)のフェローである丸山宏氏の、2020年2月のブログ記事「本1冊(※注2)を機械翻訳で訳してみた」(※注3)は、丸山氏が自動翻訳を利用した経験に関する、興味深い報告である。丸山氏は自動翻訳技術に関する学位論文があり、またIBMの東京基礎研究所の所長を務めたこともある人物である。つまり丸山氏は、自動翻訳技術に詳しく、英語も達者であるといえるだろう。そんな丸山氏が日本語の自著まるまる一冊を自動翻訳にかけ、誤訳部分などを手作業で修正していったところ、本1冊を約1カ月で英訳できたという。

 丸山氏は結論として、「出来上がった英語の文書(56035語)は、出版クォリティにはほど遠いですが、無料ダウンロードでカジュアルに読んでいただく分には、ほとんどストレスなく読めるものに仕上がったと思います。機械翻訳がなければ、すべてを自分で翻訳せねばならず、とても1カ月ではできなかったと思います。機械翻訳システムは、それなりに心の準備をして使えば、本1冊を英訳するのにも使えるレベルのツールになってきたな、と思います」とブログに書いている。

 実際のところ、現在の自動翻訳の精度はどれほどなのだろうか。平均的な英文記事を最新の自動翻訳にかけた結果を表1に示した。若干の違和感は否めないものの、内容はすっと理解できる。

○隅田英一郎 (すみた・えいいちろう)/国立研究開発法人情報通信研究機構フェロー。一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会会長

注1)「最適化された機械翻訳導入モデルによる医薬品開発業務の迅速化への試み」(AAMT ジャーナルNo.76)https://aamt.info/wp-content/uploads/2022/06/AAMT-journal-No76.pdf

注2)「機械翻訳」とは本書でいう「自動翻訳」と同義である。

注3)https://qiita.com/hmaruy1/items/bcae2015c9fed9b7341