写真はイメージ (c)GettyImages
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「人工知能による自動翻訳」と聞くと何やら難しそうだが、「ポケトーク」という商品なら知っている人も多いだろう。マイクとスピーカーを備えた名刺大の端末に伝えたいことを吹き込むと、翻訳してしゃべってくれる。あの機械は人工知能(AI)による自動翻訳技術を活用したものだ。こうした音声の入出力機能がついた自動翻訳は、誰がどこで使っているのだろう? その事例の一部を、AI翻訳の第一人者である隅田英一郎氏が紹介する。著書『AI翻訳革命』(朝日新聞出版)から一部抜粋する。

【例文】自動翻訳、ここまで訳せる

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舞妓さんもAI翻訳を活用

 古い日本の情緒を残す京都・祇園。ここに、「舞妓の芸を鑑賞し、舞妓と歓談できる」外国人旅行者向けのサービスを提供している“京風中華料理店”がある。この店に出ている舞妓は全員英語が堪能なのかというと、そんなことはない。彼女たちは音声翻訳機を使って、外国人旅行者と会話している。「綺麗な着物ですね」「ありがとうございます」「着物をどこかで借りられますか」「はい。着物のレンタルのお店があります。この近くに」。最後はお決まりの「写真に入っていただけますか」。

 健康保険をはじめ種々大変なので、外国人を診察する医療施設は多くはない。京都は外国人旅行者や留学生が多いのでニーズは大きい。例えば、京都市二条駅近くにある急病診療所は、土曜日や日曜日は外国人の患者であふれている。外国人の患者に対応しているといっても、必ずしも医師や看護師や受付の方々が英語を流暢に話せるわけではない。そこで活躍するのが、翻訳機だ。おなかが「しくしく」痛いのか、それとも「きりきり」痛いのか、細かな症状まで通訳してくれるので、外国人患者の対応もスムーズだ。

 場所は変わり、東京・銀座の有名なヘア・サロン。近年ヘア・サロンには、頻繁に外国人客がやってくる。日本の美容のレベルの高さは有名なので、外国人旅行者がこれを目的の一つとして来日することもあるのだ。美容では、客とスタイリストが仕上がりのイメージを共有していることが重要だ。そこで活躍するのが、翻訳機。外国人客と日本人スタイリストが、翻訳機を使って髪形のイメージを話し合い、スタイリストが客の望み通りのスタイルを作り上げていく。あるとき、アメリカ人の客が翻訳機で「シャンプーの最後は水で流してほしい」と言った。ニューヨークではシャンプーは水で流すのが常識らしく、自動翻訳で米日の美容室の間にある文化の違いを超えたわけだ。

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AI翻訳で「働き方改革」