
東京パラリンピック・車いすテニス男子シングルスで優勝し、1月22日に引退を発表した国枝慎吾さん。4大大会優勝28度、パラリンピック金メダル3度という輝かしいキャリアを刻んだ世界的なレジェンドが単独インタビューで語った。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。
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21年東京大会はパラリンピックでの復活を成し遂げた。金メダルを取った直後、取材ゾーンで漏らした言葉が印象深い。
「また世界ランキング1位を奪還するというのは、リオの直後は自分で信じていなかったですし、こうして金メダルを掲げているというのは、99.99%になりますけど、それくらい信じられないことですね」
その東京大会に至る過程は新型コロナウイルスという苦難があった。過去に例がない1年延期。世間も賛否が割れる中、中止になる可能性すらあった。
「考えると怖いです。もし東京大会が中止になっていたら24年パリまでやってたかもしれない……。だってリオで負けて悔しさを抱えたまま終わっちゃうわけですから。まだ世界ランキング1位のままだとしたら、パリまで続けていました。きっと」
昨夏はウィンブルドン選手権のシングルスで初優勝し、4大大会全てとパラリンピックを制する「生涯ゴールデンスラム」の偉業を打ち立てた。引退会見のとき、そのことを振り返った。
「優勝後、芝生の上でチームの皆と抱き合い、最初に出た言葉が『これで引退だな』だった」
まさに完全燃焼。
「やりきったんですよ、やっぱり。東京パラの金メダルの時にも90%以上満足していたのが正直なところで、辞めようと思っていました。ウィンブルドンは残りのワンピースだった」
仮に昨夏、ウィンブルドンで優勝していなかったら、まだ現役を続けていたのか?
「もう1年、チャンスはもちろんあるわけなので。世界ランキング1位ですし、実力的にもまだやっていたと思いますね」
引退会見で、「成績やタイトルについてはやり残したことはないです」と明言した。強いて言うなら、何が未練なのか。