企業の部活動として「サウナ部」が脚光を浴びている。そのブームを牽引し、プライベートの領域と思われていたサウナのビジネス的価値を押し上げてきたのは、一人のサウナ好き会社員だ。コクヨサウナ部部長の川田直樹さん(37歳)、通称“カワちゃん”。コクヨに勤務しながら、複業としてサウナプロデュースも手がける。すでにサウナ歴30年というその生い立ちや、サウナが課題解決の糸口になっていく過程、サウナ部立ち上げの経緯など、「サウナ伝道師」への道のり<前編>をお届けする。
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「川田さん、週末行ってきました! めっちゃ、よかったです」
月曜朝、同僚のそんな呼びかけから川田さんの会話は始まる。現在、コクヨの社長の秘書を務めながら、一級建築士として多くのオフィス空間構築の工事管理や新規事業構築に携わる川田さんだが、もう一つの顔は、サウナの魅力を世に発信する「サウナ伝道師」。企業サウナ部ブームの牽引者でもある。
パソコンにいくつもキャッチーな“サウナステッカー”を貼る川田さんのまわりには、さまざまな部署からサウナがらみの相談者がひっきりなしに訪れる。
「通りすがりに、『あの~、今度初めてサウナに行くんですけど、どんなところがいいと思います?』みたいに、ふらっと来る人が多いです。サウナ初心者の場合は希望を聞いて、こちらでいくつかセレクトしてあげるのですが、行ってきた後の感想を聞くのはいつもドキドキです。ソムリエの気持ちがわかります」
複業として活動しているサウナプロデュース業でも、その人の好みに合わせた最高のサウナ体験を「さがす、つなげる、なんやったらつくる」という熱い姿勢で向き合う。まさに、サウナー目線と設計者目線の両方を持ち合わせる「カワちゃんにしかできない」仕事をこなす。
■サウナで不規則だった生活がととのった
2022年、川田さんはサウナーにとって特別な“サウ(3)ナー(7)年”の37歳を迎えた。ここまでの道のりはけっして平坦なものではなかったという。
「新卒で最初に配属されたのはオフィス空間の建築工事などを管理するチームでした。法人企業であるお客様が稼働していない週末や平日夜間に現場に行くなど、とにかく不規則な働き方が当たり前。20代は充実していた一方でストレスも多く、その唯一の発散は飲みに行くこと。飲んで夜遅くなって結局、眠りが浅いまま、翌朝また仕事に向かう。このままではよくないなと感じていました」
あるときから、仕事終わりに飲みに行かずに、サウナに行ってリフレッシュして帰る、という習慣を作ってみた。するとまず、寝付きがよくなった。
「サウナに入るとよく眠れるため一日の節目をしっかりと作ることができる。何かその区切りの良さが自分の中でちょうどいいな、と感じましたね」