かつては社内の“宴会部長”としても有名だったという川田さん。飲み会を主催し、お酒を酌み交わすことで人脈を広げ、ビジネスにも役立ててきた経験があった。しかし、ちょうど若者の飲み会離れが進んでいることも認識し始めたころ。グループの中に、何かと遠慮がちで仕事へのモチベーションも低く、仕事のミスも増えていて、ちょっと気になる1年目の若手メンバーがいた。
「いったいどうしたものかと思ってある日、居酒屋でなく、行きつけの横浜のサウナに誘ってみたんです。そうしたら、サウナに入りながら彼が、『川田さん、僕ね……』とぽつりぽつりとしゃべり始めて。お互いにプライベートな話をしていくなかで、何か仕事で悩んでいるのかと思いきや、恋愛で悩んでいたんです。そんなこと、会社の会議室ではもちろん打ち明けられないですよね」
人と人との関係性がしっかり作られていないなかで物事を機械的に進めるのではなくて、必要に応じて場所やモードを変えながら進めることの大切さにあらためて気づいたという。
「サウナで『服だけでなく肩書も脱ぐ』ことで、からだと心がほぐれて、より仲も深まった。それから仕事の話をし、上司と部下の関係性を構築する。そんなステップ感ってやはり大切だな、と。この翌日には、その若手の彼ともう一人仲間を引き入れ、ウチの部署だけで勝手にサウナ部を始めました」
■サウナ部のモットーは「ゆるく集まりゆるく解散」
2016年4月、川田さん31歳。チーム内の3人でスタートしたのがサウナ部だった。創設後たちまち、サウナをネタに話しかけてくる人が増えていった。サウナ部員もいつしか100人近くに。
「今の時代は、コミュニティー形成には自律的な個人の意識が重要。強引に巻き込むというスタイルはあまり相性が良くないと思っているので、サウナ部は出入り自由。合言葉も『ゆるく集まりゆるく解散』です」
おもな活動は、オンラインでの定期ミーティングにソロ会、ペア会、新規サウナ開拓旅……。横浜のホームサウナ施設をベースに、ゆるい感じの交流を大事にしているという。
このあと、サウナブームを背景に、 “コクヨのサウナ部長カワちゃん”は、社内だけにとどまらず、多くの企業のサウナ部創設ブームを牽引する存在へと進化していくことになる。
(文・石川美香子)
【後編はこちら】>>1人の会社員が始めた「サウナ部」は150社加盟の企業連合へ 伝道師“カワちゃん”の挑戦
川田直樹(かわた・なおき)
大阪府立大学工業高等専門学校卒業後、オフィス空間の設計・工事を手掛けるコクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社に入社。29歳で当時最年少課長となり、副部長、部長を歴任。現在はコクヨ株式会社の秘書室の社長秘書 兼 イノベーションセンター所属。一級建築士の資格を持ち、企業のオフィス構築などを手掛けるなか、社内にサウナ部を創設。企業サウナ部ブームの礎を築く。フィンランドサウナアンバサダー、JAPAN SAUNA-BU ALLIANCE共同代表。パラレルワークとしてサウナプロデュース、イベント、サウナ関連グッズの開発、地方創生にも携わる。