ミサイル攻撃の現場(ウクライナ国防省のツイッターより)

 駅前のマクドナルドに入った。満席だったが、会話する人はいない。不機嫌にスマホを見つめる人々。ストレスは、ミサイル攻撃だけではない。彼らの友人、親類が日々、前線で戦死している。その戦いがいつ終わるのかも分からない。クリチコ市長によると、この日のミサイル攻撃により首都で、17歳の女の子を含む3人が死亡、11人がけがをした。

 加えて、「年内にロシア軍が再び、首都キーウを攻撃する可能性が高い」という情報が当地の軍関係者の間で流れている。北の隣国ベラルーシで、ロシア軍が部隊を再編成しているとされるためだ。「北からの脅威」がキーウ市民の懸念材料となっている。

 ただし、どの国の軍隊も「最悪のシナリオ」を想定したうえで、装備の購入や訓練をする。キーウ再攻撃の情報も軍が内部で作る「シナリオ」の一つであり、実現可能性はよく分からない。だが、相手はプーチン大統領。その行動は予測不可能だ。そこに市民のストレスの根源がある。

 翌24日朝、通勤時間帯にキーウの地下鉄に乗ってみた。右隣のウクライナの中年女性が微笑みを浮かべていた。「東京の朝の地下鉄も同じくらい混んでいます」と話しかけてみた。白い歯を見せて笑った。女性乗客同士で談笑する人もいた。24時間後、水道が復旧した。この日、午後には市内のあちこちで談笑する市民の姿が再び見られた。まる1日たち、少なくとも見た目は、街が元の姿を取り戻したかのようだった。

 ロシアが狙うミサイルの「威嚇効果」はどれほどのものなのか。

 首都の数カ所で、通りがかりのキーウ市民の男女10人に(1)ミサイル攻撃をどう感じるか(2)ウクライナ人の士気は攻撃で落ちないか(3)停戦のための外交交渉に移るべきだと考えるか、をインタビューしてみた。

 60代の男性 「もちろん、怒っている。ロシア人と戦わないといけない」

 30代の女性 「ミサイルが落ちるたび、ショックは受ける。でも、ウクライナがロシアと戦わなければならないという気持ちは変わらない。これだけのウクライナ人が死んで、『クリミア半島はロシアのものになりました』ですみますか。ロシアとの外交交渉はありえません」

 20代の女性 「電気が止まり、気持ちはミサイルが落ちるたびに落ち込みます。かりに外交交渉で合意してロシア軍が戦いをやめたとしても、半年後に再びウクライナに侵攻してくるでしょう。交渉には反対です」

 70代の男性 「自分は怖くない。死ぬときは死ぬし、死なないときは死なない。神のみぞ知るだ。ロシアとは400年戦ってきたんだ。ミサイルを撃たれたら、士気は高まるに決まっている。交渉は相手があるので、分からない」

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