亡くなった赤木俊夫さんの手帳

真相解明に必要な、改ざん問題の関係者への尋問は行われず、佐川氏への訴訟だけが残った。

 国の認諾後、雅子さんは財務省へ抗議文を出した。

「この裁判は、夫がなぜ死んだのかを知るための裁判でした。でも、国の認諾によってもう知ることができません。そのようなことでは、またきっと夫と同じように自殺に追い込まれる公務員が出てくるでしょう。自分で何があったのか説明したがっていた夫も、とても悔しがっていると思います」

「私は夫が国に殺されたと思っています。そして認諾によって夫はまた国に殺されてしまったと思います。夫は遺書で『最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ』と書いています。認諾によって、またしっぽを切られたのだと思います」

 抗議文にはそう怒りが記されていた。

 雅子さんは、残った佐川氏への裁判の中で、俊夫さんが自殺した原因や、改ざんをさせられた経緯などについて明らかにしてほしいと主張し、佐川氏の証人申請をしたが、大阪地裁は「必要性がない」と却下。最後まで佐川氏の口から真相が語られることはなかった。

 佐川氏については、刑事事件でも有印公文書変造容疑などで告発され、検察審査会は「不起訴不当」の議決だったが、最終的には不起訴処分となり、捜査は終結した。

 公文書改ざんが明らかになり、懲戒処分を受けて退任に追い込まれた佐川氏。その後、公の場には姿を見せていない。

 佐川氏の先輩だった元官僚によれば、

「コロナ禍もあったが、ほとんど家にこもっているそうだ。たまに電話している財務省OBもいるようだが『ご迷惑をかけた』など、そんな言葉ばかりを発していると聞く」

 とのこと。

 元官僚が続ける。

「刑事告発は不起訴、民事訴訟でも個人の賠償責任はないとはいえ、赤木さんは佐川氏の命令がもとで自殺に追い込まれているのは事実。決裁文書の改ざんは、安倍元首相をはじめ、政治家への忖度が明白です。普通なら先輩として、なんらかの顧問先などを紹介するなど面倒をみなきゃと思うが、無理だ。やったことも、結果もあまりに大きすぎるし、お詫びの言葉も聞こえてこない」

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