それを知ったのは、全日本プロレスを辞めてSWSに移籍する前後だったと思う。俺が後輩や記者を連れて豪快に飲み歩いていた時期だね。天龍がすごく稼いでいるように見えたし、“酒豪伝説”も生まれた。これもまき代がお金を右から左へうまく工面してくれたりと、彼女の理解とサポートがあったおかげで生まれたものだ。
それから本に書いてあったことで印象的だったのは、俺がフリーになって新日本プロレスのリングに上がっていたとき、彼女が交渉の窓口になってくれていたこと。当時の新日本は長州力や永島勝司さんがコンビを組んでいろいろなことを仕掛けていて、勢いがあった時期だ。その永島さんとまき代が交渉するんだが、永島さんはインタビューで「ギャラの問題になると奥さんが出てくるんだよ。タフ・ネゴシエーター(手強い交渉人)だったなあ」と言っていたそうだ。あの当時の永島さんにそう言わせるんだから大したもんだよ!
まき代は交渉するとき、無理強いするんじゃなくて、うまいことポイントをついて攻めていたね。例えば新日本相手だと「ここで天龍が出るから、これくらい儲かるんじゃないの? だからこれくらい払ってもどうってこと無いでしょう」ってね。
新日本のドーム大会でどれだけ客が入っていくら儲かるのかなんて、普通は算段できないよ。それを女一人で計算して攻めてたから、向こうにすればまき代はだいぶ強面だったと思うよ。今でも新日本相手に、天龍の女房として毅然とした態度で堂々と渡り合っている姿を思い出すよ。それにしても、頼もしかったなあ(笑)。
そんなまき代の姿を見ていたから、俺の書籍「俺が戦った真に強かった男」(青春出版社)でも、多くのプロレスラーたちが並ぶ中、最後にまき代のことについても触れたんだ。実際に彼女がよくやってくれて、アドバイスしてくれて、それで完成したのがプロレスラー天龍源一郎だからね。
この本の中ではジャイアント馬場さん、アントニオ猪木さん、ジャンボ鶴田、ハルク・ホーガン、ドリー&テリー・ファンク、ミル・マスカラスといろいろなレスラーを挙げているけど、俺が思う中で特に強かったのはスタン・ハンセンとブルーザー・ブロディだ。