海外に目を向ければ、タイキシャトル並みに絶対視されながら引退レースで敗れた名馬たちがいる。今年の欧州競馬で最も注目された馬と言っても過言ではないバーイードは、マイルG1を5連勝するなどデビューから9連勝。8月には初の中距離挑戦だった英インターナショナルステークスを6馬身半差で圧勝して連勝を10に伸ばした。
そのバーイードが引退レースに選んだのは、英インターナショナルSとほぼ同距離の10ハロンG1英チャンピオンステークス。対戦相手もすでに勝負付けが済んだメンバーが大半で勝利は固いと思われたが、稍重の発表以上に重くなっていた馬場に脚を取られてまさかの4着と、最初で最後の黒星を喫してしまった。
デビュー20戦目の引退レースで初黒星を喫したのは、米国史上に残る名牝ゼニヤッタ。2008年に牝馬限定のG1ブリーダーズカップレディーズクラシック(現BCディスタフ)、翌09年には初の10ハロンで牡馬相手のG1ブリーダーズカップクラシックを牝馬で史上初めて勝つなど、当時のゼニヤッタの快進撃はとどまるところを知らなかった。
10年もG1レースを難なく5連勝したゼニヤッタは、引退レースとして連覇のかかるBCクラシックを選択。ポツンと大きく離れた最後方に控える展開から徐々に進出し、直線では驚異的な末脚を披露する。だが先に抜け出していたブレイムをアタマ差でとらえきれず2着。間違いなく強い競馬を見せたが、残酷にも無傷の20連勝で引退の夢はかなわなかった。
今年は最優秀障害馬に4度も輝いたオジュウチョウサンが12月24日にラストランとなる中山大障害後に引退式を行うことが発表されている。一時は障害レースで絶対王者として君臨し、今年も春に中山グランドジャンプを制した11歳馬は有終の美を飾って引退式に臨めるか。タイキシャトルの「悪夢」が脳裏をよぎらなくもないが、結果はどうあれ競馬界屈指の愛され系名馬ならば大丈夫と思いたい。名障害馬のラストランと引退式をぜひ温かく見守ってほしい。(文・杉山貴宏)