そして弁護側は、警察や検察の調書を不同意にして、捜査にあたった警官を証人として呼ぶように求めた。
すると検察は、大きな争点であったAさんの違法性の認識について、「認識していた」と示す証拠だったはずの供述調書を撤回してしまった。
論告求刑で検察は、
「注意を受けたのにもかかわらず、その後も車内にはさみを携帯しており、その経緯に酌むべき事情はない」
「殺傷能力がある刃物の携帯を禁じている法の趣旨からすると、危険な犯行」
「順法意識が希薄」
「外形的事実は認めていることなどの事情を酌んだとしても、処罰が必要」
などの理由で罰金10万円を求刑した。
一方、弁護側は、
「銃刀法違反の故意はなく無罪」
と主張した。その理由として、
「法律に違反するとの認識がなく、違法性の意識を持つ可能性さえなかった」
「可罰性(たとえ法規に違反し、形式上違法ではあっても、それが軽微であれば不可罰であるとする考え方)としては非常に低い」
「法律に照らし合わせてみても、危害予防上、必要な規制をかけるような場合には当たらない」
などと述べ、
「今回の件で心の底から反省し、二度と同じことはしない」
「法の公正な適用となることを裁判所には理解していただきたい」
と訴えた。
そして判決――。
裁判官は、検察側の主張をほぼ追認する形で、
「はさみが銃刀法に違反するかもしれないという違法性の意識の可能性がなかったとまで解することは相当ではない」
「軽度の知的障害が違法性の認識を欠いた原因ではない」
などとして、弁護側の主張を退け、
「はさみを携帯した刑事責任は重い」
と厳しく指摘した。
そして、
「反省の態度を示し、前科がないことなどの酌むべき事情を考慮して」としながら、求刑通り10万円の罰金とした。
Aさんは、判決を不服として控訴した。
「言ってないことを供述調書に書いておいて、それで有罪にされるなんておかしい」
と心情を取材に打ち明けた。