
Aさんや弁護士が驚いたのは、警察や検察の供述調書だ。
「正当な理由なく刃物を持ち歩くと違法であることがわかっていた。そのようなニュースを見たこともあった」
「その上で理由なく刃物を持っていた」
「はさみが凶器であると理解していた」
「刃物を使って加害者になっていたかもしれない」
などと書かれていたという。弁護士はこれについても、こう反論した。
「Aさんは、『起訴される』『裁判になる』という重大性も十分な理解もなかった。警察、検察の取り調べも怖くて、帰してもらえないと不安で『はい、はい』と言うがままに応じたんです。検察からAさんの供述調書が開示されると、言っていないことが書かれていました。『違法性を認識』なんて言葉が、Aさんから出るはずがないんです。Aさんは八尾署に連れていかれたときにも障害者手帳を所持しており、それを警官も確認している。犯罪性はなく、(0.86センチ長い)はさみ一つでなぜ裁判までするのか」
Aさんは法廷で、八尾署の警官から職務質問を受けたことについて、
「動揺と混乱で……。法に触れるのかな、はさみってという感じだった。『8センチ(以上)あるから銃刀法違反』ってことを言われたので」
「聴取を受けて緊張して、『被疑者、被疑者』って言われたので何かすごく、心情的にしんどかった」
などと述べた。
また、Aさんと同じ障害者施設で仕事をしていた以前の同僚が証人として出廷した。
「施設に新車が納入されたので、『ならし運転でちょっと行ってきて』とAさんにお願いしたことがあったんです。するとAさんは、高速道路で名古屋まで行ってしまいました。また、みんなの昼ご飯を買ってきてと経費で決まった金額を説明しても、予算にないものを買ってきたりしてしまう。悪気などはないのですが、そういう知的障害の部分があるので、Aさんに二つ、三つといった複数の指示はしなくなりました」
こうした証言などから、法廷でAさんの障害の程度が明らかになった。