でも、芸人が悪口っぽいネタをやっているとなぜか「悪口」などと言われたりする。そこには人々の芸人に対する無自覚な差別と無理解が潜んでいる。要するに、ボクサーや俳優ほどにはプロの仕事だと思われていないのだろう。

 今さら言うまでもないことだが、そもそも毒舌と呼ばれる芸でなぜ笑いが起こるのかというと、そこに何らかの共感があるからだ。みんながうすうす思っていたけど口に出せなかったようなことを、芸人がはっきり言い切るからこそ「見事に言い当ててくれた」という爽快感から笑いが生まれる。毒舌はその対象を突き放すものではなく、聞き手の心に寄り添う一種の共感芸なのだ。

 近年、人を悪く言うとか、傷つけるといったことに関して、誰もが過敏になっている。それ自体は悪いことではないのだが、プロの芸人がネタの中でやっていることにまで、その基準を適用する必要はない。面白ければ笑えばいいし、面白くなければ笑わなければいい。お笑いを見るときに必要な心構えはそれだけだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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