ただ、どんな時代にも、人々の潜在的な不平不満のガス抜きとしての「毒舌芸」は必要とされるものであり、今回はウエストランドがたまたま今の時代の空気に合った毒舌ネタを披露したことで、それが評価されたのだろう。

 しかし、このネタが「悪口漫才」「毒舌漫才」などと呼ばれることについて、ネタ作りを担当する井口自身はそれほど納得していないようだ。彼に限らず、毒舌のイメージがある芸人ほど、それを「悪口」とか「毒舌」と他人から言われることを嫌うようなところがある。

 優勝したウエストランドが『ザ・ラジオショー』(ニッポン放送)に出演した際、ナイツの塙宣之が「俺たち、別に傷つけようなんて思ったこと、一回もないじゃん、芸人になってる時点で。それをみんながそう言い出すでしょ。傷つけるとか、毒舌とかさ。全然違うと思うんだよな」と言っていた。

 それに答えて井口も「下から見てる偏見で言ってるだけなんですけど。傷つけたいわけないじゃないですか」と語っていた。

 また、12月25日放送の『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日)でも、ビートたけしが「『毒舌漫才が優勝しまして、元祖毒舌漫才のたけしさん、どう思いますか』って。『知らねえよ、そんなの、馬鹿野郎』って言ったら、(相手は笑って)『さすがに毒舌ですね』って。もう腹立って、腹立って」と話していた。

 たけしが語ったこの逸話は「毒舌」に対する芸人と世間の人の間の認識のズレを象徴するものだ。このズレが生じる根本的な理由は、芸人やお笑いというものが世間からナチュラルに見下されているからだ。

 そもそも、井口も塙もたけしも、人を傷つけようと思って毒舌芸をやっているわけではない。あくまでも、笑いを取るための手段の1つとしてそういうやり方を選んでいるだけだ。言葉だけを切り抜くと「悪口」に見えるようなことであっても、それは一般的な意味での悪口とは似ても似つかないものだ。

 ボクサーがリングの上で対戦相手を殴るのも、俳優がドラマのワンシーンで人を叩くのも、一般的な意味での「暴力」とは違うというのは明らかだろう。そんなことはあまりにも当たり前なので、試合後のインタビューで「井上尚弥さん、今回も見事な暴力でしたね」などと言うレポーターは1人もいない。

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なぜ芸人は悪口っぽいネタを「悪口」と言われるのか?