急に強い便意に襲われる下痢は、慢性化すると「外出が怖い」などといったように、日常生活に支障が出やすい。原因となる病気がほかにない慢性下痢は完治が難しいが、治療の手立てやセルフケアについて、専門の医師に聞いた。
【データ】「過敏性腸症候群(IBS)」の起こりやすい年代は?主な症状は?
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下痢の中でも4週間以上続くものは「慢性下痢」と呼ばれる。慢性下痢の原因で最も多く、約3割を占めるとされる「過敏性腸症候群(IBS)」の患者数は、日本人の約10%にのぼるとの推計もある。横浜市立大学医学部医学教育学教授で同大学病院消化器内科の稲森正彦医師はこう解説する。
「IBSは、大腸内視鏡検査などでは、腫瘍や炎症などの目に見える病気は発見されません。腸の機能に何らかの異常が出ている状態だと考えられています。良くなったり、悪くなったりするのが特徴です」
IBSの診断に使われる「ローマIV基準」は次のようなものだ。
「6カ月以上前から症状があり、最近3カ月の間に、平均して少なくとも週1回以上、腹痛が繰り返し起こる」という前提があり、次のうち2項目以上に当てはまる場合に診断される。
(1)排便に関連して起こる
(2)排便の回数が変わる(増えたり、減ったりする)
(3)便の形状(外観)が変わる(軟らかくなったり硬くなったりする)
IBSには、絶えず下痢が続く「下痢型」だけでなく、がんこな便秘が続く「便秘型」、下痢と便秘の両方が起こる「混合型」、「分類不能型」もある。
「下痢があると、トイレから離れられず、日常生活に支障をきたすようなケースも。人によっては救急車を呼ぶほどの腹痛を起こすこともあります。命にかかわる病気ではないですが、完治が難しいのがやっかいなところです」(稲森医師)
似た病気に「機能性下痢」があるが、初診では鑑別が難しいこともある。治療の大部分はIBSと同じだ。
■精神的ストレスが悪化要因の一つ
星ケ丘マタニティ病院内科部長で心療内科医の金子宏医師によれば、IBSの原因は明らかではないが、そのメカニズムは少しずつわかってきているという。