一方の山本被告。

 弁護側は冒頭陳述で、検察とは違う展開を述べた。

「山本被告と淳子被告は靖さんを連れ出して計画を実行しようとしました。しかし、新幹線の中で考え直し、中止することにして、大久保被告もそれに同意しました」

「新幹線の車中で(何らかの薬で)靖さんをぐったりさせるのが山本被告の役目でしたが、中止したのでしませんでした」

「靖さんをアパートに連れて行った時でした。山本被告と淳子被告の2人が目を離した間に、大久保被告が殺害してしまったのです。その場には山本被告も淳子被告もいない、大久保被告の単独犯。こんなことがあるのかと思われるでしょうが、これが現実なんです」

「大久保被告は、高齢者や障がい者は何ら価値がなく、長生きさせる方がおかしいという考えの持ち主です。大久保被告が自分の判断でやった犯行です」

 などと主張し、当初の殺害計画は中止したため山本被告に殺意はなく、犯行現場にもいなかったと、無罪主張の根拠を述べた。

 しかし、大久保被告が殺害したために、その後の計画を復活させ、警察への通報は避けて、死亡届の入手と火葬へと動いたとした。

 検察、弁護側両者の冒頭陳述では、靖さんを殺害するまでの経緯は食い違うが、大久保被告が実行犯であるという点は一致している。

 検察が主張した、大久保被告の薬液注入による靖さん殺害事件。この事件が発覚するきっかけとなった、ALSの女性患者の嘱託殺人事件についても、山本被告と大久保被告が、なんらかの薬物を投与して殺害したとされる。

 この両被告は以前、電子書籍で共著の本を出版した。そのタイトルは、「扱いに困った高齢者を『枯らす』技術:誰も教えなかった、病院での枯らし方」。

 本の説明書きには、

「証拠を残さず、共犯者もいらず、スコップや大掛かりな設備もなしに消せる方法がある。医療に紛れて人を死なせることだ」

「入院中の病室で普通にあるものを使えば、急変とか病気の自然経過に見せかけて患者を死なせることができてしまう」

 などと書かれている。

 それを実践したのが、靖さんやALSの女性患者の事件だったのだろうか。

 靖さんの事件では、遺体が検視も司法解剖もされずに火葬されており、「遺体なき殺人事件」だ。

 異例ずくめの裁判は、淳子被告の初公判が2月13日の予定で、大久保被告の日程は決まっていない。山本被告は、2月7日に判決が言い渡される予定だ。

(AERA dot.編集部 今西憲之)

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